3人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
他の車がいなくて良かった。俺は車がトンネルを出ても路肩では止まらず、そのままUターンしてまた反対側から入った。
何往復しただろうか。相変わらず何も聞こえず、焦燥感を覚えた頃、ゆっくりと車を路肩に止めた。
「坂下、動画は?」
皆で食い入るように画面を見つめ、耳を近付けてみる。何も、なかった。
「今日は、帰るか。環境測定器と風速計で、今日のデータも揃ったしな」
俺が言うと、二人とも嬉しそうに頷いた。
帰りの車内で、眠たそうに大木が話し出した。
「さっきさ、めちゃくちゃ怖かったけどさ、やっぱり田山と一緒だと面白いよな。俺、田山がこのサークル入ったって聞いて、自分も入ったんだよ。だって、田山って面白いよな。何も喋んないのに面白い奴って初めてかもよ、俺」
一人で、まるで肝試しで活躍した後の子供のように嬉しそうに話す。大木が酔って騒ぐ姿は何度も見たことがあったが、こんな風に言われたことはなかった。何かに取り憑かれたのは大木の方じゃないか。
「酔って寝るなよ。もうすぐ寮に着くからな」
きっと大木には、俺が喜んでいるのもバレてるんだろうな。
最初のコメントを投稿しよう!