呻きトンネル

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 他の車がいなくて良かった。俺は車がトンネルを出ても路肩では止まらず、そのままUターンしてまた反対側から入った。  何往復しただろうか。相変わらず何も聞こえず、焦燥感を覚えた頃、ゆっくりと車を路肩に止めた。 「坂下、動画は?」  皆で食い入るように画面を見つめ、耳を近付けてみる。何も、なかった。 「今日は、帰るか。環境測定器と風速計で、今日のデータも揃ったしな」  俺が言うと、二人とも嬉しそうに頷いた。  帰りの車内で、眠たそうに大木が話し出した。 「さっきさ、めちゃくちゃ怖かったけどさ、やっぱり田山と一緒だと面白いよな。俺、田山がこのサークル入ったって聞いて、自分も入ったんだよ。だって、田山って面白いよな。何も喋んないのに面白い奴って初めてかもよ、俺」  一人で、まるで肝試しで活躍した後の子供のように嬉しそうに話す。大木が酔って騒ぐ姿は何度も見たことがあったが、こんな風に言われたことはなかった。何かに取り憑かれたのは大木の方じゃないか。 「酔って寝るなよ。もうすぐ寮に着くからな」  きっと大木には、俺が喜んでいるのもバレてるんだろうな。
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