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岸田の言葉は優しさよりも、言外に帰れと言われている気がして、律は軽く頭を下げ、
「じゃ、お先です」
と言うと、レジを出て控室に向かった。誰か来るのか、夜間便も終えているから、独りの時間を持ちたいのかもしれなかった。
着替えを済ませ外に出た時も、まだ京都の夏の夜独特の巻き込まれるような暑さが残っていた。人いきれの熱気が澱のように地面に漂っているのかもしれなかった。
律は一度、今は星も見える夜空を仰ぎ見てから、店の駐車場の端に停めたミニタイプの自転車に乗り、道路へ出た。
あまりスピードは出さず、夜気を背後に振り払うような気持ちで走る。明らかに飲んだ後と思しき連中を追い越し、鴨川沿いの納涼床近くの通りへ出た。やはり人の姿はいつもより多い。
人の流れをやり過ごす為に一度停車し、ペットボトルの水を飲んでいると、背後から声をかけられた。風鈴の音色の、あの声だった。
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