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 彼がハンドルを切ると、わたしの体はごろっと倒れた。後部座席で横になったままだが、彼は特に心配するようすも見せず、話しつづけた。 「蛍ってやつは、きれいな水があるところにしかいないんだ。しかも、そういった場所は開発とかで年々数が減っている。悲しいことにね」  車はスムーズに進んでいた。夜中も間近ということもあり、信号以外で停車しなかった。 「これから行くところも、実は開発予定の場所なんだ。ゴルフ場にするんだとかでね」  窓の向こうから、明かりがどんどん減っていく。ビルから住宅ばかりの光景となり、やがて田畑へ移り変わった。街灯の明かりだけが並ぶ、もの寂しい道を行く。  そうして着いた場所は、山奥だった。あたりに建物はなく、草木が生い茂るばかり。  夜空には、都会では拝めない星の数々を散りばめた世界が広がっている。  彼は車を停め、わたしを降ろした。涼しい夜風が流れる。同じ夏とは思えないほど、心地よい。葉っぱたちがざわめき、緑の香りを発した。 「じゃあ、行こうか」  わたしを背負うと、彼は慣れた足どりで獣道を進んでいく。
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