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「僕はこのへんの出身でね。小さいころは、よくここに遊びにきていたんだ。夏になると、カブトムシやクワガタ、セミなんかを捕って虫かごをいっぱいにしたもんだよ。日が沈むと、蛍を集めにも行った」  懐かしむ口調で、彼はつづける。 「あれは美しい昆虫だよ。彼らは決して、僕たちのために光っているわけじゃないんだろうけど、僕はそこに夏の夜の儚さを見いだしている」  ふう、と溜息をつき、彼は足をとめた。  暗闇の中を、スマホのライトだけで照らすのは、心もとないだろうに。ライトの明かりに、小さな蛾たちがしつこく集まってくる。  彼は、それを鬱陶しく手で振り払うと、再び歩を進めた。 「確か……このへんだったな」  彼の足もとから、ぴちゃぴちゃと水音が聞こえる。近くを小川が流れているのか、水のせせらぎがした。 「もうすぐだよ」  目の前を覆う茂みをどかしていくと、やがて開けた場所に出た。  池だろうか沼だろうか。なにせ大きな水たまりが、目の前に姿を現した。
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