夏の夜

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 僕は一生懸命立ち漕ぎで自転車を漕ぎ家路へ急ぐ。辺りは暗くなり始め車のヘッドライトが眩しい。駅を通り過ぎると少しスピードを緩めた。ふと夏の匂いがした。  部活帰りで汗もベタベタだし、お腹も空いてるから急いで家に帰りたいはずなのに何故か僕はおもむろに自転車から降り、自転車を押しながら歩いた。ひどく喉が渇いていたので近くの自動販売機で飲み物を買うことにした。こんな時は炭酸に限る。お金を入れボタンを押し出てきたジュースを取り出し手に取ると、見たこともない斬新なデザインだった。  こんなパッケージだったっけ?なんて思いながらもタブを押し上げゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んだ。冷たい泡が喉を通り、胃からじわじわ染み渡る。もちろん最高だ。  さて、帰るか。自転車に股がり辺りを見回すと、僕は驚いた。あれ、ここはどこだ・・・?さっきまであったはずの駅や、ビル、居酒屋、道路までなくなっている。  見たこともないただただ一面に広がる草原。心地良い風が気持ち良い。よく見ると、あちこちに建物の一部のような物が地面に埋もれ少しだけ見えている。  うーん、夢・・・?寝ぼけているのかな。僕は手に持ったジュースの残りを飲み干しゴミ箱に捨てた。もう一度振り返るといつもの光景に戻っていた。  やばい、僕疲れているのかな。あんな不思議な体験をしたのに驚く程落ち着いている。  さて、家に帰るか。次の日の帰り道また自動販売機で飲み物を買おうとしたがあの自動販売機は何処を探しても見つからなかった。撤去されたのかな。若い僕はそれ程気にならなかった。  数年後の僕は大手飲料メーカーのデザイン部で働いている。あの日あの自動販売機で手に取った缶のパッケージははっきり覚えていなかったが、それに近いデザインで応募した作品が採用されたのだ。僕はあの缶のデザインと同じ物を探したが、結局見つからなかった。やっぱり夢だったのかな。だけど最近僕は考える。過去にあの缶がなかったと言うことは、あの日見た光景は何だったのか。僕の空想?別の世界?それとも・・・
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