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8月の夜。
暑い夏でも、部屋にいる私には関係ない。今夜も涼しい部屋で、コントローラー握りしめて、テレビ画面と見つめあっている。
大学生になって、地元を離れた。
高校の友人たちもそれぞれの場所で生活している。あの頃からしばらく時間は経ったけれども、なんだかんだ今でも関係が続いている。大学でできた友達と過ごす時間も楽しいけれど、「高校の友達」というのは、それとは別になんだかちょっと特別な感じだ。暮らし慣れた場所から離れた一人暮らしに、やっぱり寂しさを感じているからかもしれないけれど。
いつか、高校の友達との関係が薄れて、そんな特別感も失ってしまうのだろうか。今は、大学の友達と過ごす時間の方がずっと多い。いくら頻繁に連絡をとっているからといって、ずっと続いていくのだろうか。私たちは変わらないという確信の後ろから、不安がちらっと覗いている。変わってしまいたくないが、そういうものなのだろうか。失いたくなくて、くだらないことでもネタとして連絡することも、これから少なくなってしまうのだろうか。
「俺たちは、何があっても大丈夫さ!」
ゲームの中の主人公が、ちょうどそんなことを言った。大好きなシリーズの作品。登場人物達の確かな友情が伺える熱いシーン。けれど、他に考え事をしていたせいでその感動も薄れてしまった。彼らは、エンディングを迎えるその時まで、様々な困難をその友情と共に乗り越えて行くのだろう。だけど、エンディングのその先は?ラスボスを倒して、みんながそれぞれ自分の故郷へかえって、その後は?
(…やめよう。ちゃんと集中しなきゃ。)
そう思い直して、コントローラーを握り直す。その時、ちょうど、私のスマホにメッセージアプリの通知が届いた。軽い音が5、6回続く。
開いてみると、高校の友達の1人から、動画が送られていた。
(…なんだろ?彼女がこんなに動画を送ってくるなんて、珍しいな。)
開いてみると、彼女とその友人達らしき人々の姿や笑い声が流れていく。ちょうどその時、ポンっと軽い音と共に、メッセージが送られてきた。
「部活のみんなと花火!」
一時停止を忘れたゲームの中では、主人公が一方的に敵から攻撃を受けている。主人公の苦しそうな声と、先程、友情を誓ったCPの登場人物が攻撃を仕掛ける声が部屋に響いている。私の目は、スマホの画面からまだ離れない。
「くそぉ!こちとら今日もゲームだよ!楽しめよこんちくしょう!」
明るくおちゃらけて返信したけれど、本当は複雑だ。すぐに既読がついて、にこやかなクマのスタンプが返ってくる。
(…あーあ。)
ほいっとスマホをその辺に投げて、コントローラーを握り、またテレビ画面を見つめる。画面は既にゲームオーバーになっていた。
気分が乗らなくて、このままやめてしまおうかと「タイトル画面へ戻る」選択肢にカーソルを合わせる。選択肢の後ろで、倒れ伏したキャラクター達がうっすらと見えた。
そんな彼らの姿に、なんとなく、このまま終わらせたくなくて、結局「コンティニュー」を選択する。
私の冒険は、まだ終わらせない。
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