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光壁の前に陣取っていたのは異形の生命体だった。
頭部とおぼしき箇所は、五枚の花弁のようなもので形づくられている。
花弁の色は肉に似た質感があり、それが植物ではないだろうということは理解できた。
花弁の中央には口とおぼしき箇所があり、鋭い歯のようなものが無数に並んび恐怖心をあおる。
胴体は植物の蔓を幾重にも巻いたような形で、こちらも肉とおぼしき質感がある。
その中から何本かが触腕として伸びており、手元(?)に寄せたガラスのような球体になにか細工を施しているようだ。
全体的に植物っぽい印象をうけるが、自分の知る植物はこんなに肉っぽいものはないし、なによりもリクライニングチェアにゆったり身体をあずけたりはしない。
とりあえずソレを植物人類と仮称し、おそるおそる観察を続ける。
椅子に腰かけ淡々と作業を続ける姿には知的なものを感じさせるが、その直感が本当に正しいかは自身がない。
我らとて、不快生物をみかければ攻撃に移ることがあるのだから、相手の知性が攻撃性と関連するともいいきれないだろう。
まだ距離があるためにわかりにいが、家屋の2~3階に相当するサイズがありそうだ。敏捷性は不明だが、見つかることはなるべくさけたい。
次に手元(?)で弄っている道具に注視してみた。
距離は細密な情報を減退させるが、植物人類の手にしたルーペのような道具を介することで、拡大してみることができた。
それはまるで惑星のミニチュアだった。
ガラス状の球体の内側にもうひとつ惑星を模したと思われる球体がある。
どんな細工になっているのか、そこでは動物たちが生活していた。
植物人類はそれを観察し、時折なにか干渉しているようだ。
だがそれは上手くいってないらしく、動物たちの数は急速に激減していく。
そして惑星を模した球体が赤黒く枯れ果てると、そこでの生命は全滅してしまった。
それでも植物人間はしばらくは観察を続けたが、なんらかの結論を得たのか、あるいはなにも得られずに終わったのか、それから手を放し光の列の中へともどし、またあらたな球体を取り出していた。
彼らの実験が成功だったのか、あるいは失敗だったのか判断はできない。
あるいはただ、成り行きを確認しただけで、なんの期待も目的もなかったのかもしれない。
ふと、ある仮定が浮かんだ。
自分の住んでいる惑星も、あのなかのひとつでしかないのではないかと。
そしてそれに干渉し、生物たちの運命を左右するアレらは、ひょっとしたら“神”なのかもしれない。
――まさか
自分の内に湧いた仮説を即座に否定する。
そもそも我らがあがめる❝神❞とは姿がちがいすぎるではないか。
そんなことがあるはずないと、邪悪に染まりかけた思考を脳から追い出す。
そんなとき、植物人類の顔とおぼしき部分がこちらに向けられた。
しまったと思うまもなく、触腕が身体にまきつくと自由を奪われる。
巨大なソレの手元まで運ばれると、花弁の内に隠れていた複眼のような眼球で観察される。
それに見つめられるのは生きた心地がしなかった。
複眼の表面を反射する微細な光が、微かな動きを見せるたび寿命が縮んでいくかのようだ。
実験の一部にされるのか、あるいは鼻から不良品として処分されるのかもしれない。
恐怖に捕らわれていると、口元からギチギチという音が高速で響く。
おそらくは彼らの言語であろうが、それがなんだか人類には解読できない。
それをあちらも悟ったのだろう。
植物人類はあきらめたように床へともどした。
そして大人が子どもにするように、ぞんざいに鱗の表面を指先でなぞった。
わからない。
わからないことこそが恐怖だった。
しかし幸いにもその恐怖はいつまでも続かなかった。
触れられた箇所を中心に、身体が徐々に透明性をおび、そこから粒子へと返っていく。
そして『私』という個は、その場から消失したのだった……。
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