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母親の藤間裕子が、台所で淹れてきた紅茶を家族の前に出す。
すでに友香は父親がカットしてくれたケーキに口をつけている。
「ちょっと友香!もう少し待ちなさい!」
母親の裕子に注意された友香は手にしたフォークをテーブルの上に置く。
「意地汚い女・・・」
玄弥が小さい声で言ったつもりの嫌みが、友香には聞こえていた。
「ゲン!うるさい!」
弟に目掛けて何かを投げつけてやろうと周りに視線を向けるが、手ごろなものが見つからなかった。
「全く・・・。玄弥。お前が悪い。友香に謝れ」
まだ小学校4年生の玄弥にとっては、良い悪いの判断がまだ完全ではない年ごろだけに、言ったその言葉がどれほど相手を傷つけるかは知らなかった。
家族にとって幸せな時だった。
家族だけの誕生日祝いを終えた友香を、母親の裕子は静かに、「友香。二人だけで話をしましょう」と声を掛けた。
二人は友香の部屋に入ると、友香は自分の机の椅子に座り、母親の裕子は彼女のベッドに腰を下ろした。
「友香。これから話す話は真実そのものだけど、絶対に約束をして。口外しない。人に奪われない。そのお守りに魅せられない。ってね・・・」
母親が最後の言葉を口にしながら指差したのは、友香が右手首に着けているミサンガに向けられていた。
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