バイト先での出会い

1/1
前へ
/55ページ
次へ

バイト先での出会い

カラオケボックスでのアルバイトは、皆若い子ばかりだった。 ほとんどが大学生。 昼間に働いている会社との真逆な人間関係に、最初は戸惑ったけれど、刺激も受けた。 何よりも、明るく元気な彼らを見ていると、母の事を忘れて笑える時もある。 『笑うことが出来るなら、まだまだ私は大丈夫!』 そう、自分にも言い聞かせて、自分を励ましていた。 仕事に慣れた頃、よく同じ時間に働く女の子に声をかけられた。 「雅さんって、私の家のご近所さんですよね?」 そう聞かれて、身に覚えの無い私は首をかしげた。 すると、 「川崎大地、覚えていますか? 私、妹の茜(アカネ)です!」 そう笑う茜の顔に、大地の顔が過る。 目を丸くして黙る私を笑い、 「え~?似てません~? 私、お父さん似だからかなぁ」 と言いながら、指で頬をかいて、上目遣いで私を見た。 「…言われたら、似てる。 ビックリして言葉が出なかったわ」 と、思わず答えると、 「エヘヘ(笑)。これからもよろしくお願いします!」 と、可愛らしい笑顔で頭を下げ、茜は調理場へと出ていった。 残された私は、 「年の離れた妹…いたね、たしか…」 懐かしい恋心も思いだし、温かい気持ちになる。 そんな私を急かすように、お客様の来店のベルが鳴る。 私は、ベルの音を聞き、新たに訪れてきたお客様を案内するための準備をした。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加