新たな再会

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新たな再会

茜を気にし始めて気付いたこと。 それは、大地が迎えに来るということ。 バイトの子達の中では、 『イケメンの彼氏』 とか、 『イケメンのお兄さん?』 とか、色々言われてるようだ。 そんな茜に、 「兄だと暴露すると、紹介して催促がうるさいので、雅さんも内緒で」 と頼まれた。 了承したのだけれど…なぜだろう…? この流れは…? 「乗って!」 運転席から顔を出し、声をかけてくる大地の言葉に、 「私は電車があるので…」 そう笑顔で断り、足早に去る。 最近よく繰り広げられる会話だ。 茜を迎えに来たとき、私が同じ帰宅時間だといつも誘われる。 けれど、近くだからといって、乗るのは忍びない。 「気にせず乗っちゃってくださいよ」 と、茜も言ってくれるけれど、私は頑なに断っていた。 びしょ濡れの私を送ってくれた、過去の情けない記憶が甦るからなのか、母の病気の事が、引け目に思うからなのか…なぜか分からないけど、私は大地の車に乗れなかった。 いつものように断って、いつものように電車で帰る帰り道。 家の最寄り駅に着くと、改札口に大地が立っていた。 『なぜ?』 思わず周りを見渡す。 降りる人の少ない時間帯。 周りには誰もいなかった。 『なぜ?』 頭の中に、そのフレーズだけが木霊する。 無言のまま大地の前まで行き、とりあえず頭を下げ、通りすぎようとした。 「何で?」 大地から声をかけられた。 「何が?」 私は思わず問いかける。 何で?は、こっちの台詞だ。 「いや…、何で俺の車に乗らないの? ちょっとの距離だし、嫌でも我慢とかさ…」 今まで見てきた堂々とした大人な雰囲気とは異なる、言葉を選びながらの自信なさげな言葉に、私の方が戸惑ってしまう。 「嫌とか我慢とかじゃなくて、ただ申し訳ないだけだから」 そう私は答えて、大地から離れるよう歩き出した。 そんな私の後を追うように、大地も歩き出す。 「…誰か待ってたんじゃないの?」 少し後ろを向きながら、思わず私は問いかけた。 大地は無言で下を向いてしまった。 それから私達は無言のまま、家まで足早に帰った。 普段なら1人でのんびり、ぼーっとしながら帰る道中は、車で通わない理由の1つ。 静かな通いなれたこの道を、ゆっくり歩く時間が、私は好きだった。 それなのに、徒競走ような今日の早歩きは、仕事とバイトをした後の体に堪えた。 お風呂に入り、目を瞑る。 『明日は、居ないでよ…』 心の私の願いは、彼に届くだろうか…
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