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気になる
俺の名前は、川崎大地。
首都圏の大学を出て、地元に戻り、大手企業の営業をしている。
家へ帰る道中のカラオケボックスで、妹の茜がバイトをし始めた。
「帰り道怖いから、仕事のついでに迎えに来て」
と、可愛くねだられると断れない。
仕方なく迎えに行く中、帰りの車で懐かしい人の話が出た。
「そうそう!近所の雅さん、覚えてる? 同じバイト仲間なんだよ~!」
嬉しそうな茜の弾んだ声に、俺は疑問を投げ掛けた。
「…バイトって、彼女、昼間仕事してないのか?」
そう聞くと、
「昼間は会社で働いて、夜は毎日のようにバイトしてるみたい。…体壊さないかちょっと心配なんだよね…」
と、先ほどの弾んだ声とは異なる、少し落ち込んだ声に、運転しながらも、思わずチラッと茜に視線をやる。
「…じゃあ、帰りが同じ時間の時、一緒に送ろうか」
そう提案すると、茜は嬉しそうに、
「うん!喜ぶと思う!ありがとね、お兄ちゃん!」
と、俺の腕を掴んだ。
この日を境に、雅を誘っているのだが…
何故だ?
毎回断られる。
茜も、
「誘うの迷惑なのかも…、私、嫌われたくないから、誘うのやめようかな…」
と言い出す始末。
たしか、あいつは俺の事が好きだったはず。
だから、嫌われてないはずなのに、なぜ断るんだ?
どうにも気になった俺は、茜を家で下ろした後、
「ちょっと出るわ」
と、玄関ドアの前まで歩いていた茜に声をかけ、足早に駅へと歩き出した。
そして、なぜか自然と走り出していた。
息を切らせて駅に向かうと、まだ電車は来ていなかった。
呼吸を整えていると、我に返り、
『俺、何しに来た?』
と、自分の行動に戸惑っていた。
いつも冷静で考えずに行動をすることなど無かったはずなのに、今の自分の行動が自分でも理解が出来なかった。
そんな戸惑いの中、電車が来た。
雅が降りてきた。
俺を見て目を丸くしている。
当然だよな…。
車で帰ったはずの奴が、こんな時間にこの駅にいるのは、不思議だよな…。
雅へかける言葉を考えていたら、雅が俺に頭を下げ、黙って通りすぎようとした。
俺は、その雅の態度に、なぜかイラっとしてしまった。
「何で?」
そんな言葉が思わず言葉として口から飛び出した。
「何が?」
その言葉を言う雅の態度に胸が痛くなった。
「いや…、何で俺の車に乗らないの? ちょっとの距離だし、嫌でも我慢とかさ…」
生きてきた中で、こんなにしどろもどろな問いかけは初めてだった。
そんな俺を戸惑うような目で雅が見ていた。
そして、
「嫌とか我慢とかじゃなくて、ただ申し訳ないだけだから」
そう雅は俺に答えると、俺から離れるように歩き出した。
そんな雅の後を追うように、俺が歩き出すと、
「…誰か待ってたんじゃないの?」
少し後ろを振り返りながら、雅に問いかけられた。
俺は答えられずに、無言で下を向いてしまった。
『ただ、雅と話したかった…』
なんて、言えなかった。
それから俺達は無言のまま、家まで足早に帰った。
家に着くと、茜が、
「どこ行ってたの?」
と、意味深な視線で問いかけてきたが、その返事を返すこと無く、俺は自分の部屋へ向かった。
『何で、駅まで行ってしまったのか…』
『何で、俺を頼ってくれないのか…』
『何で…』
繰り返される答えの無い自問自答をベッドで繰り返していたら、いつの間にか眠ってしまっていた。
『今日はきっと厄日だ…』
そんな答えに逃げながら…。
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