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会社の川合課長に相談すると、
「おぉ! どうせなら会社の近くはどうだ? 探しとくぞ!」
と、仕事よりもやる気に満ちた顔で返事がもらえた。
昼休みには、パートさんや先輩達も交えて、皆で考えてくれた。
その中に、同じカラオケボックスで働く息子さんがいるパートさんもいたことで、カラオケボックスのバイト仲間にも知れ渡り、バイト仲間からも、
「家見つけるの、頑張ってくださいね!」
と、応援されて恥ずかしい思いをした。
でも、皆に応援されて、
『人ってひとりじゃないんだ…』
と、また改めて実感して嬉しかった。
そんな時、バイト終わりの帰り際、
「今日、お兄ちゃん来ないので、電車で一緒に帰ってくれませんか?」
と、茜に声をかけられた。
大地の車を、ひたすら断わって気まずかった私にとって、このお誘いは嬉しかった。
大地とは関係なく、茜と仲良くしたかったからだ。
電車から降りた帰り道、ちょっと静かな茜が言いづらそうに話し出した。
「あのですね、無理だと思うし、あり得ないと思うんですけど…」
と言って、少し間があり、
「今、雅さんって、新居探してるんですよね?」
と、私に問いかけてきた。
私は、
「うん。そうだよ~! なかなか難しいけどね」
と、ちょっと苦笑いで答えると、
「あり得ないと思うんですけど…、我が家に居候とかって無しですよね?」
と、さらに言いづらそうに問いかけてきた。
私は思わず、
「えっ?」
としか答えられずに、茜の次の言葉を待ってしまった。
茜は、慌てた様子で、
「やっぱ、無理ですよね? 無しですよね? あり得ないですよね? …だけど、うちのお兄ちゃんが、『良い家が見つかるまでうちに住めば良いじゃん』って…」
と、最後は少し困った顔で話を終えた。
大地の考えは、全く分からない。
身内でもないのに、そんなお世話になれない。
何を考えているんだろう…。
私が無言で考え込んでいると、
「ホント、ごめんなさい!でも、聞いてこいってうるさくて…」
と言った後、茜は下を向いてしまった。
そんな茜を見て、
「心配してくれてありがとう。大地にも伝えて。大丈夫だって」
と、笑って答えると、
「その返事じゃ喜ばないかも…」
と、少し困った顔で茜が答えた。
そして、
「私も、雅さんがうちに来るのは賛成だから、ちょっと考えてみてください!」
そう言って、茜は自宅へ走っていった。
茜の後ろ姿を見ながら、
『大地を今以上に好きになったら、ホントに困るから、距離置きたいんだよね…』
言えない本音を頭の中で言葉にすると、今まで堪えた想いが溢れてくる。
『どうしよう…』
『やっぱり大地がすきだ…』
素直な気持ちが溢れ出した。
近所に住む大地。
大地の親も私の親を知っている。
過去もすべて…。
歴代の彼女みたいにお医者さんの親でも弁護士の親でもない、ただの病人の親…。
認めてもらえる訳がないし、大地が私を好きになるのも…、あり得ない。
告白なんてする気もなければ、近づきたいとも思わない。
これ以上近付かない。
そう心に決めているのに…
大地の同情は辛すぎる…
これ以上、私を惨めにさせないで欲しいよ。
これ以上、優しくしないでよ…
大地に伝えられない言葉が頭の中を駆け巡り、私は涙が止まらなかった。
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