感情の行方

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感情の行方

リビングで時計を見ながらソワソワする大地を、あきれた様子で、大地の母の由美は見ていた。 あれは、2日程前の出来事だ。 茜が、夕飯の時間に何気ない会話のように話した事だった。 「雅さん、家を売りたいみたい」 その言葉に、大地の手が止まった。 大地の様子が由美は気になったが、茜の話題の方がもっと気になり、 「何で?引っ越すの?」 と、茜に視線を向け問い掛けた。 「広い一軒家は維持が大変だから、小さな家に引っ越したいみたいよ~」 と、大皿のパスタを自分の小皿に移しながら茜が答えた。 「あら、じゃあ、あの家から雅ちゃん居なくなっちゃうのかしら?寂しいわね」 と、由美が答えながら大地を見ると、先ほどと同じ体制のまま固まる大地が目に止まる。 最近の大地は、なにかおかしい。 考え事があるのか、ぼーっとしている。 彼女がいても、こんなに悩む姿は見たことがなかった。 そもそも、何かに悩み込む姿は見たことがなかった。 由美は、何となく分かっていた。 大地の気持ちを。 そして、その気持ちを認めない大地にも…。 しばらくして、大地がおもむろに言い出した。 「雅、うちに住めば? ほら、部屋なんて余ってるし…」 その発案に、茜は目玉が飛び出そうなくらい驚いていた。 そんな茜をチラッと見ながら、由美は考えた。 そして、 「あら、でも大地に彼女が出来たら、雅ちゃんが居づらいわよ。それに、雅ちゃんに彼氏がいたら、それは嫌がるんじゃない?」 ちょっと意地悪かな?とも思いながら、由美は大地に問い掛けた。 大地は、少し考えて、 「雅に彼氏がいたら…無理かもしれないけど、俺は彼女作らないから大丈夫」 と、言い切った。 そんな大地に、由美と茜は、 『雅ちゃんがいなくなるの、嫌なんだね…』 と、同じ言葉が二人の頭の中を過った。 そして、茜は大地から重大ミッションを託され、その結果待ちの大地は落ち着きがなかった。 そんな大地を見て、 『なんか、今が一番人間らしい大地かも』 と、いままでのクールな姿から想像できない姿に、由美は嬉しく思っていた。
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