過労

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過労

雅の一週間は、平日の昼間に工場の仕事。 そして、月曜日と木曜日の仕事終わりに母のいる病院に行き、他の平日の夜と土日はバイトの日々だった。 休み無く働く毎日に疲れるけれど、母の事やこれから先の不安を嘆く時間すら無い日々に、雅は満足していた。 その日々の中でのお見合い話。 頭の中に大地の顔が浮かぶ。 『諦めなきゃ…』 お見合いを受けようと思いながらも、大地への未練が雅を苦しめた。 悩んでしまい、眠れない日々が続いたある日。 とうとう雅は、体調を崩して、バイト先のカラオケボックスの休憩室でしゃがみこんでしまっていた。 店長が見つけ、ソファに寝かせてくれた。 しばらくして茜が呼ばれた。 「川崎さん、たしか、柏木さんのご近所さんって言ってたよね?今日少し早めに上がっていいから、柏木さんを送ってくれない?」 と、店長から言われた茜は、 「もちろんです!母が家にいるので迎えに来てもらいます!」 そう伝えると、急いで携帯から由美に連絡をいれる。 夕飯の支度をしていた由美は、普段かかってこない茜からの着信に不安になりながら、急いで電話に出た。 雅の体調不良を聞き、慌てて車でカラオケボックスに向かうと、少し怠そうにソファに座る雅と、そんな雅の横で心配そうにしている茜がいた。 店長に挨拶をして三人でカラオケボックスを後にする。 車に着くと、シートを倒して雅を寝かせた。 そして、 「雅ちゃん、このまま家に返すのは心配だから、しばらくうちに来て」 と、由美が雅に伝えた。 すると、雅は起き上がり、 「ホントに寝てれば大丈夫なんで帰ります」 と、由美に答えた。 由美は真剣な顔で、 「おばさんね、雅ちゃんのお父さんが元気な頃に『何かあったら互いに助け合おう』って約束してたの。雅ちゃんに押し付ける訳じゃないのよ。でも、ホントに心配なの」 訴えかけるような言葉に、雅は断る言葉が見つからなかった。 黙ってしまった雅に、 「大地、一週間仕事で家に帰らないの。主人は海外勤務だし、私と茜だけだから、気楽にして大丈夫だから。だから、お願い…」 と、さらに由美が付け加えて伝えると、 「じゃあ…、お言葉に甘えます…」 と、雅は答えた。 その様子を見ていた茜は、急いで大地にメールをした。 『本日から一週間、自宅へ絶対に帰らないでホテルに泊まって下さい』 と、伝えると、 『はっ?何で?』 と、大地らしからぬ間抜けな返信が…。 茜は少し考えて、 『雅さんが体調不良でうちで看病します。お兄ちゃんが帰ってきたら、雅さん、家に戻っちゃう! だから、ぜったい帰ってこないでよ!!』 と、念を押すと、 『わかった』 とだけ返信が来た。 『ホントかなぁ…』 茜はちょっと不安に思いながらも、体調の悪い雅が泊まってくれることが、安心して嬉しかった。
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