川崎家

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川崎家

川崎家は、幼稚園以来だ。 帰りの道中、自宅に着替えを取りに寄り、訪れた川崎家。 うろ覚えの部屋の間取りが微かに甦る。 『このドアは、確かトイレ…。あっちのドアはお風呂に繋がっていた気がする』 そんなことを思いながら、雅は川崎家を見渡していた。 茜が、ゲストルームのシーツを替えて掃除機をかけている間に、由美は夕飯の準備の続きをしていた。 今日の夜は、大地の好きな唐揚げの予定だったが、急遽鳥鍋に変えた。 雑炊にしたら、雅が食べやすいだろうと考えての事だった。 キッチンから、部屋をキョロキョロ見ている雅が見えた。 あの様子じゃあ、だいぶ体調も良いのかもしれない。 でも… 由美は、ダイニングに雅を座らせて、 「今回は回復しても、大地が居ない一週間は、うちから仕事に行ってね。おばさんからのお願いよ」 雅の肩に手を置き、由美が優しい眼差しで伝えると、雅は少し困った顔をしながらも、 「わかりました。おばさん、ありがとう」 と、頭を下げた。 茜の部屋と大地の部屋の間にあるゲストルームは、ベットだけが置いてある部屋だった。 雅がベッドに横になると、一階の由美と茜の声が微かに聞こえた。 普段1人の静かな空間にいる雅にとって、自分以外の生活音が聞こえる家は久々だった。 その生活音は、 『あなたはひとりじゃない』 そう言ってくれているような安心感があり、その音を聞きながら、雅は眠りについた。
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