川崎家

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由美と話した後、雅はゲストルームのベッドに横になって考えていた。 これからのことを… 『ここにいて、いいのかな…』 そう思いながらも、今隣に大地の部屋があるというこの空間を幸せだと感じてしまっていた。 『大地に恋人が出来たら、辛くなるかもしれない…』 目を閉じ、頭の中で考える。 『でも、このままお見合いは出来ない。なら…辛くなるかもしれないけど、今は近くにいられたら…』 そんな気持ちに変わっていく、自分の変化にも戸惑っていた。 夜になり、茜が帰宅すると、さらに川崎家は明るい雰囲気に包まれた。 その日の深夜… トイレに行くため部屋を出た雅に、大地の声が聞こえた。 リビングから聞こえるようだ。 『出張じゃ…?』 そう思いながら、そっと階段を降りると、そこには、茜と大地がダイニングで向かい合い話していた。 「もう、雅さんに見つからないように出てってよ!」 ちょっとイラッとした茜の声が聞こえた。 「…ちょっと様子見るとかダメだよな?」 と、大地の声が聞こえた。 「ダメに決まってるじゃん! 何で毎日来るのさ! 昨日も来たでしょ! あのフルーツの山、お母さんが呆れてたよ」 「どんな体調不良か分からないから、手当たり次第に買っちゃってさ」 そんな二人の掛け合いに、雅は驚いた。 『あのフルーツ、大地が買ってきたんだ…。私に気を遣って帰らずに居てくれたなんて…』 大地に申し訳なく思うと共に、心配してくれる大地に嬉しさが込み上げてきた。 「明日もどうせ来るなら、私の好きなお菓子も買ってきてよ」 茜のおねだりする声が聞こえた。 雅は、二人に見つからないように二階へ戻り、ベッドに入ると静かに泣いた。 それは、幸せな涙だった。 『ここに居たい』 心から、そう思えた。
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