居候になる

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少し早めに会社に行き、川合課長の元へ行く。 「おう! どうした?」 気さくな課長の笑顔に、私も笑顔で挨拶をする。 「おはようございます。今少し時間よろしいですか?」 そう聞くと、座っていた椅子をくるっと回して、私の方へ体を向けてくれた。 「なんだ??」 そう聞く課長に、 「新居、母が落ち着くまで知り合いの家で居候させてもらうことになりました。お騒がせしてすみません」 と、頭を下げると、 「あ!その手があったのか! それならうちに来てくれても良かったぞ!」 と、笑う課長に、 『いやいや、上司の家は無いでしょ…』 と、心の中で思いながらも、 「ありがとうございます。それでですね、バイトの方もしなくて大丈夫になりまして…」 と、続けると、 「おお!そうかぁ!体調崩したそうだし、気にしてやれなくて悪かったな…。バイトの方は、俺から店長に伝えとくが、柏木からも伝えてくれな」 と、言ってくれた。 お礼を改めて伝えて自分の仕事の持ち場に行く。 お昼休みに、バイト先の店長に伝えて、今後のシフトの事を、今日の夜話をすることになった。 電話を切ると、課長から話を聞いたパートさん達に囲まれて、質問責めにあってしまった。 「どんな家に行くの?」 「ちゃんと信頼できる家なの?」 「ちゃんと休まる家なの?」 どれも私を心配する質問ばかりで、皆の気持ちが嬉しくて、私は途中で泣いてしまった。 人の優しさが心に染みる。 私の人生、まだこれからだ。 改めて、実感させてもらえた。 バイト先でも、さみしがってくれる子達もいて、嬉しかった。 忙しい週末だけ、1ヶ月ほど働いて、バイトは辞めることになった。 バイト先からの帰り道。 実際、辞めると決めて、改めて川崎家に住むことを、少し不安に感じながらいつもの道のりを歩く。 『もう、戻れない…』 なぜかそんな風に思えた。 それは、期待以上に不安が強く、いつ切れるか分からないロープにぶら下がっているような気がした。 不安を書き消すように、 『大丈夫!大丈夫!』 そう、自分に言い聞かせて、空を見た。 今日は星がきれいだ。 目を閉じ、深呼吸をする。 …足音が聞こえた。 前を見ると、大地がこちらを向いて立っていた。 『なんで?』 そう思いながら、大地の方へと歩く。 大地の目の前まで行く。 すると、 「暗いから迎えにきた」 とだけ言って、大地は元来た道を歩きだした。 私は、その後ろ姿を見つめながら歩く。 嬉しいのと戸惑いと、そして、やっぱり不安が押し寄せる。 同情されなくない。 でも、気にかけてもらえるこの関係は嬉しい…。 複雑な思いのまま、私は大地の後ろを歩いた。 家に着いて、大地が部屋に行ってしまってから、 『あっ、お礼言ってない…』 そう気づいた。 かといって、部屋を訪れるなんて出来ない。 連絡先も知らないから、メールも出来ない。 モヤモヤした思いのまま、私は眠りについた。
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