新しい生活

1/1
前へ
/55ページ
次へ

新しい生活

新たな住まい。 川崎家のゲストルームが私の部屋になった。 机は、今まで使っていた物を大地が運び入れ、カーテンやラグを茜と一緒に選んで買った。 そして、なぜかドアノブが変えられて、鍵つきのドアノブになっていた。 「部屋にいる時は鍵をかけてね」 と、なぜか分からないけど、由美からお願いされた。 『…必要ないと思うけど』 そう思ったが、とりあえず従うことにした。 大地のお父さんの大輔(ダイスケ)にも、テレビ電話で挨拶をした。 大輔は、1年に1度くらいのペースで1ヶ月ほど帰ってきて、また海外に行くの繰り返しのようだ。 由美から話を聞いていたようで、私の居候を喜んでくれた。 私は、おじさんやおばさんにとっても娘のようだと言ってくれて、本当にうれしかった。 ただ、 『大地とも兄弟みたいなもの』 とも言われている気がして、大地への思いは隠さなきゃと思った。 大地の家は、敷地も広く、周りの家の倍ほどの庭がある。 最近、この庭の車庫の横に倉庫が作られていた。 しばらくして、 「ちょっといい?」 と、由美に呼ばれた。 由美の前に座ると、 「おじさんと話したんだけど、雅ちゃんのお家、お母さんの早苗さんにとっても、思い入れのある家だと思うの。だから、傷む家電は処分して、とっておきたい物は、車庫の横の倉庫に置いて、建物は、しばらくそのままにしておいたら?」 と、言われた。 考え込む私に、 「補強はしなきゃいけないかもしれないけど、誰かに貸したりとかしてもいいだろうし…」 と、由美が続けた。 私は思わず、 「貸せるんですか?」 と、聞くと、 「やり方は色々あるだろうけど、貸せるわよ」 と言われた私は、 「残せるならそうしたいです」 と、答えた。 その言葉を聞いた由美は頷いて、 「じゃあ、おばさんに任せて」 と、微笑んだ。 私は嬉しくて、涙目になりながら、 「はい!」 と、答えた。 『あの家が残せる…』 私は、喜びで胸が一杯だった。 そんな嬉しそうな私の顔を見つめながら、 「後ね、ちょっと相談があるの…」 と、由美が言いづらそうに言うと、雅は、少し真剣な顔になり黙って頷いた。 「おじさんとも話したんだけどね、雅ちゃんの保護者になっちゃダメかな?」 と、由美は雅に問い掛けた。 驚き、そして困惑する雅。 そんな雅の様子を見ながら、 「例えば、雅ちゃんのママの事でお医者さんに話を聞かなきゃいけない時、そばにいちゃダメかな…?」 と、由美が続けて話すと、…雅は泣いていた。 『もう、無理しちゃダメよ』 由美がそう伝えた時の心配そうな顔が、雅の頭を過る。 泣いている雅を、優しく包み込むように抱き締めながら、 『私が守ってあげたい』 由美は、心からそう思っていた。 雅は、由美の心からの思いに、感謝で胸が一杯になった。 今、一番近くに居てくれる人だ。 安心させてくれて、私を大切に想ってくれているのが伝わる。 大地の事が気になったけれど、素直に甘えさせてもらおうと雅は思った。 由美と雅は、病院からの連絡やお便りを共有する事を約束し、病院にも雅の保護者として由美が支えると伝えた。 雅は、心から支えてくれる安心感に言葉にならない嬉しさが込み上げてきた。 1人だと思った。 1人で頑張らなきゃって思っていた。 でも、ふと周りを見れば、手を出して待ってくれてる人がいた。 『同情されたくない』 そんな思いで頑なに1人で頑張ろうと無理していた自分にも気付いた。 同情でもいい。 それでも、思いやってくれる人の思いは本物だから。 由美を見て、そう思えた自分にも嬉しかった。 『良かったね』 って、自分で自分の頭を撫でてあげたいくらいに。 母の事は、まだまだこれからだけれど、頑張れる気が、雅はしていた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加