足立さんからの提案

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足立さんからの提案

岸本さんの娘さんを見送った後、足立さんに声をかけられた。 「雅ちゃんに相談があるの」 そう言って、足立さんは言葉を続けた。 「この家、貸すかもって聞いたんだけど、うちに貸してくれないかしら?」 突然の話に雅は驚いた。 「川崎さんから、大工さんの知り合いを探してるって聞いてね、よく聞いたら、柏木家を維持するために見てもらいたいって言ってたの」 続けて話す内容に、大地の母の由美が周りに聞いてくれてるんだ…と、雅は思った。 「それでね、うちに貸してくれるなら、修繕費用はうちが持つから、貸してもらいたくてね」 と言われ、 「えっ?費用を負担してくれるんですか?」 と、思わず聞くと、 「いいわよ~! 費用はね、うちの息子が出したいって言ったのよ。 息子がね、実家は嫌だから、隣が借りれるならそうしたいって、言っててね…」 と、言いづらそうに足立さんは話し、 「医者になるために大学行ったのに、親の反対押しきって、海外ボランティアに行って帰らず10年以上よ…」 と、ため息をついた。 私は、その話を聞いて、 「…息子さん、いたんですか?」 と、今更ながら聞いてしまった。 足立さんは、少し驚いて笑いながら、 「会ったこともあるわよ~! あっ、雅ちゃんは小さかったから覚えてないのね」 と、言った。 足立さんと別れた後、雅は1人考えていた。 『足立さんの息子さん、どんな人なんだろう…』 『足立さんが借りてくれるなら、それが一番いいのかも…』 記憶に無い足立さんの息子さんの事を思いながら、賃貸契約が現実的になったことに、胸を踊らせていた。
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