母の病院

1/1
前へ
/55ページ
次へ

母の病院

母の入院が2年以上続いている。 それでも、入院前の目が虚ろな時が少なくなっていた。 入院直後は、牢獄のような個室で、見ている私の方が辛すぎて、なかなか会いに行けなかった。 一般的な個室になり、そして、今大部屋に替わった。 大部屋の人は、それぞれが少しづつ異なる病のようで、見ていて分かりやすい人もいれば、病人に見えない人もいた。 母が病棟の外へは出られないため、病棟内のカフェスペースのような所で会話をする。 幸いなのか、強制的に入院した事は、母は覚えていないようだ。 私にも普通に話をしてくれる。 …そんなときだった。 何気ない言葉のように、 「どうしてここにいるんだろうねぇ…」 母が呟く声が聞こえた。 私は答えられなかった。 『私が入院させたんだよ』 そう言えなかった。 私は、下を向いて黙ってしまった。 …胸が痛かった。 母は、そんな私を気に止めていないようだった。 看護婦さんに、 『もう少し様子を見て、転院も考えましょう』 と言われた。 また決断の日がやってくる… 私は、 『落ち込むな!しっかりしろ!』 そう心で自分を叱咤して、病院を後にした。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加