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足立さんの息子
川崎家に居候をしてから、だいぶ月日がたった。
柏木家の維持は、私の希望で間取りはほとんど変えずに、足立さんがお金を負担してくれて耐震補強の工事や床の張り替えをしてもらった。
家電製品は、息子さんが使っていたものを持ってきてくれたりしたので、私は、壁紙を張り替えたり外壁塗装をしたりするくらいだった。
そして、まだ使えるトイレやお風呂は、支障が出たら相談する事にして、家賃は貰わず、
使用する光熱費や水道代だけを息子さんに払ってもらうことにした。
その話し合いの時、少しだけ息子さんに挨拶をした。
「足立悟(アダチ サトル)です! よろしくな!」
と、日焼けした肌に爽やかな笑顔で微笑む悟が、雅は眩しく感じた。
初めて見た顔なのに、胸が温かくなった。
足立さんが以前話したように、自分の実家には顔も出さずに、柏木家に来たようだ。
足立さんの旦那さんも、息子に会う気も無いらしい。
「頑固な父親と頑固な息子なのよ」
と、足立さんは溜め息をついて嘆いていた。
そんな悟は、海外ボランティアの経験を生かして、困ってる海外の人をフォローする市役所の職員をするようだ。
時差がある海外とも連絡を取り合うため、市の職員なのに、泊まり込みで居ない時もあるらしい。
だからなのか、挨拶をした日以降、ほとんど顔を合わせることは無かった。
同居生活になれてきた大地に、足立悟の話を聞いてみたが、私と同じように覚えていないらしい。
大地は、会ってみたいとも思わないようだ。
茜ちゃんは、足立さんの困ってる姿が新鮮で、野次馬根性で挨拶をしに行ったようだ。
帰ってきて、
「イケメンなおじさまがいた!」
と、由美にはしゃいで語っていた。
『イケメンな悟』は、しばらくの間、近所で有名人になっていた。
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