手紙

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手紙

雅の母、早苗の転院が現実的を帯始めた矢先、由美が早苗の病院から呼び出された。 そして、手紙を受け取り帰ってきた。 由美は、その手紙をテーブルに置き、1人考えていた。 『柏木さんから手紙を渡してほしいと頼まれてまして…。柏木さんの了解を得て、お渡しする手紙の中身を拝見させてもらったのですが、内容が内容なだけに、娘さんに私どもから渡せなくて…。 娘さんを支えてくださっている川崎さんから渡していただけますか? その時、娘さんのそばに居てあげて下さい』 そう言っていた、担当の人の言葉が頭を過る。 その封筒の中には、由美宛の物もあると言っていた。 ダイニングのイスに座り、由美は、自分に宛てられた手紙を開いた。 それは、子供が書いたような字で、書道を習っていた早苗の綺麗な字とは異なる字で、今の早苗の状況が、由美の心を締め付ける。 『ゆみママへ ごめんね みやびをおねがい 』 その言葉だけが書いてあった。 その言葉の意味を考える。 早苗の辛さを少しだけしか理解してあげられてないかもしれないけれど、早苗を想い、由美は手紙を抱えて泣いた。 『なにもしてあげられない』 そのもどかしさが由美を苦しめた。 雅の手紙には、何が書いてあるんだろう… 『保護者の川崎さんになら、読んでいただいてよいと、柏木さんが言っていました』 そう言っていたけれど… 由美は、雅宛の手紙をただ見つめるだけで、開く事は出来なかった。 その日の夜、久しぶりに大輔がいる今、彼に相談をすることにした。 由美宛の手紙の早苗の字を見つめる大輔。 「何か雅ちゃんが悲しくなることが書いてあるかもしれない。 雅ちゃん宛の手紙は、週末に渡そうか」 そう言った後、 「大地と話してくる」 と言って、大輔は大地の部屋へ向かった。 部屋で本を読んでいた大地は、普段来ない父親が部屋に来たことに驚いていた。 大輔は、ベッドに座ると、 「…雅ちゃんが好きか?」 と、突然大地に問い掛けた。 その問い掛けに、 「え?いや?…べつに…」 と、言葉を濁す大地に、 「今お前がどう思ってるんだ? ちょっとの好きなら諦めろ」 と、真顔で大輔が言葉を返すと、 「本気だよ。ずっとそばにいたい」 そう大地も答えた。 「これから先、お前が雅ちゃんを傷つけたら、お前は俺の息子じゃない。ここも出てってもらう。その覚悟もあるか?」 そう語る大輔を、大地が真顔で見つめた。 「雅ちゃんは、俺と由美で何があっても守ると決めた。 だから、雅ちゃんに本気なら、俺達を安心させないと認めないからな」 突然の父親の宣言に、大地は戸惑いながらも強く頷き、 「…わかった」 そう答えた。 大地の真剣な眼差しに、大輔は安心した様な表情を浮かべた後、大地の肩を軽く叩き部屋を出ていった。 大輔が出ていったドアを見つめながら、大地は、 『…何かあるのか…?』 と、少し不安な思いになっていた。 窓の外を見ると、月がきれいな三日月をしていた。 月を眺めながら、大地は雅を想っていた。 父親に宣言したことで、より雅を大切にしたい思いも込み上げていた。
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