再会

1/1
前へ
/55ページ
次へ

再会

高校を卒業した私は、自宅から2駅離れた工場で働き始めた。 母は進学を進めてくれたけれど、したいことも無かったし、働くことを選んだ。 工場での仕事は、同じことの繰り返しの毎日だけれど、それが私には心地よく、人間関係も良好だった。 そんな平和な日々の中、少しのアクシデントがあった。 いつもの帰り道、電車を降りた私は、上を見上げていた。 『こんなに雨が降るなんて、聞いてないんだけど…』 傘を持っていなかった私のぼやく声は、雨音に書き消されていた。 ずぶ濡れのまま歩く私の後ろから、少し高級な白い車が通りすぎ、私の少し前でハザードランプを付けて止まった。 不思議に思いながらも、その車の横を通りすぎようとすると、 「雅ちゃん!乗って!!」 と、開いた助手席の窓の奥から、女性の声が聞こえた。 雨が目に入り、前が見えにくい中、運転席に目をやると、心配そうな大地の母の由美(ユミ)がいた。 驚いた私は思わず、 「あっ!いいです!シート濡れちゃうし!」 と、おもいっきり断ると、 「そんなこといいから、後ろの席に乗って!」 と、由美に強く言われ、仕方なく後ろのドアを開けると、奥の運転席側の後ろの席には、本を読む大地の姿があった。 思わずドアを開けたまま固まると、 「早く乗って!」 と、また由美の声がした。 私は申し訳ない気持ちで、出来るだけシートに浅く座り、席が濡れないように祈った。 家までは、歩いて10分、車でなら数分。 なのに、このときは歩く方が早く感じるほど車の中は居心地が悪かった。 私がシートに座るのを確認した由美は、車を発進させ、 「今日は、大地が大学休みで帰ってきた所だったの! 駅で会えてたら、雅ちゃん濡れずにすんだのに、気付かなくて…ごめんなさいね」 と、申し訳なさそうな由美に、私が申し訳なく思った。 でも、隣の無言で座る大地の事が気になり、言いたい事が言葉に出来ず、ただ下を向いて、濡れたスカートを見つめていた。 チラッと見た大地の姿は、中学の頃より大人びていて、またかっこよくなっていた。 胸が高鳴ることはなかったけれど、 「やっぱり、大地は私の初恋の人だ」 そう改めて実感をした日でもあった。 でも… 『もっとかっこよく再会したかった…』 これが一番私が思ったことだった。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加