もう1つの手紙

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もう1つの手紙

リビングでは、片付けを終えた由美と雅が、ソファに並んで座っていた。 「雅ちゃんに、渡したいものがあるの…」 由美は、緊張した面持ちで雅を見つめる。 大輔は、少し離れたダイニングでその様子を見ていた。 雅は、首をかしげて、由美の次の言葉を待つ。 由美が手にしていた手紙を雅に渡した。 「これね、雅ちゃんのママからみたいなの。 おばさんも見ていいって言われてたけど見てないから」 と由美が話している声を聞きながら、雅が手紙を開く。 母の文字とは思えない綺麗ではない字に、雅はショックを受けた。 そして、その内容を見て… 「うぁぁぁ!」 と、泣き崩れた。 想像以上の泣き方に、由美は戸惑い、大輔は立ち上がった。 2階の大地と茜も思わず部屋の外へ飛び出した。 雅は、顔を覆い背中を丸くして泣き叫んでいた。 雅の手から手紙が床に落ちた。 由美はその手紙を拾い、見てしまった。 そこに書かれていた言葉は… 『みやびへ くびくるしめてごめんね ははおやしっかくだね おかあさんをわすれて 』 その言葉の意味に、 『くびって、どうゆうこと?…、まさか…』 あまりの衝撃に確信が持てず、ただ手紙を見つめていると、雅がその由美の様子に気付き、 「お母さんに思い出してほしくなかった! 傷付けなくないのに…、なんで…? 」 と、苦しそうに泣きながら由美に訴えた。 雅は、由美に母との辛い出来事を知られたことよりも、母が思い出して傷付いてしまってる事が、何よりも辛かった。 『お母さんが悪いんじゃない!』 『病気のせいなのに…』 母に言いたい言葉が頭の中で繰り返される。 雅は、言葉に出来ない思いを抱えたまま、嗚咽を漏らしながら泣いていた。 由美は、 『首を苦しめたって…こと…? そんな辛いことをこの子は1人で抱えてたの…? 早苗ママも思い出してしまったの?』 かける言葉が見つからない由美は、一緒に泣きながら、ただ肩を優しく抱き寄せるしか出来なかった。 しばらくして…、 「…1人にさせてください」 そう言って、雅が2階に上がると、茜と大地が部屋の前で佇んでいた。 雅は、2人を見ないように部屋に行き、ドアの鍵を閉めた。 泣き続ける由美のもとへ大輔が駆け寄り、手紙を手に取ると、無言で手を口にあてその手紙を見つめていた。 雅宛の手紙を見ながら、由美宛の手紙を思い出し、早苗の胸の内を知った気がした。 『どうしたら、いいんだろう…』 大輔も、雅の胸の内を思うと、雅にしてあげられる事がわからず、立ち尽くしていた。 大地がリビングに現れた。 そして、大輔の手にしている手紙を取り上げた。 それを黙って大地は読んだ。 大輔は、 「早苗さんに、雅ちゃんを頼まれたんだ…」 そう言った後、続ける言葉が見つからず、黙ってまだ泣いている由美を抱き締めていた。 大地は、 「わかった」 ただ一言大輔に伝えると、2階へと上がっていってしまった。 大輔は、その大地の後ろ姿の残像をしばらく見つめていた。
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