雅と大地

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雅と大地

雅は、泣きながら部屋に戻った。 そして、柏木家から運んできた机の前の椅子に座る。 しばらく涙が止まらなかった。 数時間たっただろうか…。 ボーッとする頭の中で、母の事を想う。 『おかあさん、つらいよね…』 『もう、会ってくれないかな…』 『おかあさんがこれ以上、辛い思いをしないようにしてあげたいけど、私の存在が辛くさせてるのかな…。』 雅は、どうしたら母が救われるのか、どうしたら自分は大丈夫だと安心してもらえるのか、分からなかった。 机に置いた腕に顔をうつ伏せて、考える。 何も浮かばない。頭が真っ白だ。 その時、 『あっ、おばさんも悲しませちゃったんだ…』 と、一緒に泣いてくれた由美の事を思い出した。 『私って、ホント皆の厄介者だな…』 頭の中にそんな言葉が沸いてきた。 『1人でどっかいこうかな…。もう、疲れちゃった…』 これから先、母に会うことも怖く、現実と向き合うことが怖く、雅は全てに諦めかけていた。 雅はふと、まだ泣きじゃくっていた時に、大地がドアの前で何か話していた事を思い出した。 『何言ってたんだっけ…?』 辛いと思う気持ちが溢れていて、あの時は大地の声がよく聞こえていなかった。 『大地を近くで感じたい…』 大地が恋しくて堪らなくなった雅は、大地の部屋のそばに行きたくて部屋を出た。 すると、ドアの横の壁に寄りかかるようにしている大地が見えた。 驚く雅を、大地が引き寄せ抱き締めた。 「お前には、俺がいる」 そう言って、さらに強く抱き締める大地に、雅は泣きながら寄りかかっていた。 雅が泣くのが落ち着いた頃、 「部屋、入っていい?」 大地がそう聞いてきた。 雅がドキドキしながら頷くと、少しドアを開けたまま部屋の中に入る大地。 「こうしておかないと、後で父さんに叱られるから」 そう言って優しく微笑み、雅の手を引き部屋に入った。 そして、ベッドに寄りかかりながら、並んで床に座った。 雅の手を離さない大地。 今までされたことのない大地の行動に戸惑いながらも、心は安心していた。 「大丈夫か?」 そう聞く大地に頷くと、 「手紙、見た」 と、大地が続けた。 固まる雅の手を握り直し、 「雅は、どうしたい?」 と聞いてきた。 下を向いて黙っていた雅は、少し悩んだ後に、大地の目を見つめた。 「私、お母さんに会いたい。でも、おかあさんが傷付いちゃう…」 また、涙が溢れてきた。 大地が、雅の涙を自分の服の裾で拭う。 そして、雅の目を優しく見つめながら、 「このまま会わないのは、おばさんをもっと辛くさせる記憶になってしまうんじゃないか?」 と言い、続けて 「おばさんの傷が癒えるか分からないけど、大切だって気持ちを、おばさんに伝えていかないか?」 そう穏やかな声で言ってくれた。 雅は、少し考えて、静かに頷いた。 そんな雅の頭を優しく撫でながら、 「これからさ、雅とおばさんが幸せなれる方法を、俺も一緒に見つけていきたい」 と、大地が伝えた。 雅は、 『それは…同情…? 』 とっさにそんな言葉が頭を過るけれど、大地を失いたくない思いが強く、不安を胸にしまって大地の胸の中に飛び込んだ。 大地は、 「大切にする。 ずっと一緒だ」 そう言って、飛び込んできた雅を抱き締めた。
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