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目にした現実
今日は、月曜日。
母からの手紙を見てから、初めて会う日。
不安で胸が苦しくなる。
仕事では、周りに迷惑をかけないように集中して無事1日を終えた。
定時で終えて、大地の事が頭の中を過る。
『やっぱり、一緒に行ってもらおうかな…』
病院の中へは大地は入れないし、申し訳なくて今日の付き添いを断ってしまったけれど、大地に甘えたい思いが強くなってしまう。
雅は勇気を出して、大地の会社へ電車で向かった。
駐車場に着き、大地の車を見つけた。
雅は大地に、『会社に来た』とメールを送ろうと携帯を手にしたその時、大地の車の近くに女の人が立っているのが目に止まった。
雅の居る所からでは、少し薄暗かったため顔が良くみえない。
『きっと、知らない人だろうな』
そう思い、視線を外そうとした時に、車のライトの光で女の人の顔がハッキリと見えた。
『山下桃花さんだ…』
何年も会っていないのに分かってしまった。
あの大人びた綺麗な顔や姿は、中学生の頃よりももっと綺麗になっていた。
ただ、桃花を見ただけなのに、涙が溢れた。
雅は、急いで元来た道を戻り、電車に乗る。
『私は、見てない…、 私は、見てない』
そう、頭の中で繰り返す。
涙が頬を伝う。
『確か、桃花さんの家は、お医者さんだった…』
ふと、そんなことが思い出される。
『どうしよう…。同情でそばにいるのに、私がいたら、大地が幸せになれないかも…』
母の病院へ行くつもりだったのに、今の気持ちで母と向き合う勇気が持てなかった雅は、病院へ行けなくなったと伝えて電話を切った。
『川崎家に帰りづらいな…』
大地と顔を会わせるのが怖くなった雅は、帰りたくても帰れない思いに駈られていた。
携帯電話で頼れる人を探す。
今の自分の状況を理解している人が、雅には1人しか浮かばなかった。
一方、病院近くの車の中で、雅からの連絡を待つ大地の所に、由美から連絡が来た。
「雅ちゃん、今日病院行かなかったみたいで、病院から様子を聞かれたんだけど、今日行くって朝は言ってたわよね?」
そう聞かれた大地は思わず、
『母さんからまた聞く事になったのか…』
と、当たり前だけれど、自分が1番じゃないことを不満に思いながら、
「雅から、連絡ないの?」
由美にそう問い掛けた。
「それが、電話かけても出ないの…」
と、少し心配そうな声の由美に、
「わかった。俺も電話してみる」
そう伝えて電話を切った。
すぐに雅に電話をかける。
…出ない。
『なぜだ? なぜだ?』
不安が増してくる。
行く宛が分からない大地は、雅の会社へと向かった。
就業時間の終えた工場は静まり返っていた。
駐車場に停めた車内で、どうしたらいいか考えていた。
雅の仕事の終わり時間が5時。
今は9時を回っている。
すると、由美から連絡が来た。
『雅ちゃん、お友達といるみたいだから安心して帰ってらっしゃい』
そう言われた。
『俺の電話になぜ出ない?』
苛立ちが募る。
由美からの電話を切って、すぐに雅に電話をかける。
『俺、なにかしたか…?』
大地は、不安ばかりが募っていた。
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