啓太と大地

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時計を見ると、もうすぐ10時だ。 そろそろホテルを探さなくては… 雅が、啓太に、 「そろそろ帰るわ」 そう伝えた時、雅の携帯が鳴った。 画面を見ると、『大地』の文字が写し出された。 啓太がそれに気付き、先に携帯電話を取り上げる。 驚く雅の顔を見ながら、 「ここ、桜の間で~す」 と言って、電話を切った。 雅が、 「ちょっと! 勝手に電話出ないでよ!」 そう言い返すと、 「だって、あれ俺宛だもん♪」 と、笑顔の啓太。 雅が不思議そうな顔をした時、入り口のドアが開いて、大地の姿が見えた。 両手を口にあてて驚く雅。 大地は、啓太を気にすることなく、雅をまっすぐに見つめて近づいてきた。 そして、雅の前に来て、 「雅、お願いがあるんだ…」 そう呟いた。 雅が、 「…え?」 と言葉を返すと、 「俺と結婚してほしい。雅の気持ちがまだ俺に向いてないなら待つから…」 そう言って大地は、雅の両手を自分の両手で包み込んだ。 突然のプロポーズに戸惑う雅は、黙り込んでしまった。 そんな雅を見つめて、 「もう嫌なんだ。雅の事を1番最初に教えてもらえない事が…。俺が雅の1番でいたい…」 と言葉にして、大地は自分の両手で包み込んだ雅の手にキスをした。 その動作は本物の王子様のようで、あまりにも自然な振る舞いに、啓太は見とれてしまっていた。 雅は、大地の行動に戸惑いながらも、 「同情では、想いは続かないから…」 と勇気を出して打ち明けると、 「同情なんて、してない。」 大地は、迷いなくそう言葉にした。 「一生大切にする、約束する」 そう続けた言葉に、雅は思わず涙を流した。 嬉しかった。 正直、こんな私を愛してくれているなんて、そんな自信は無かった。 それでも、大地が雅を心から大切に想ってくれている、その気持ちは伝わった。 結婚するにはまだ不安があるけれど、失いたくない想いが雅の心に溢れた。 「一緒に帰ってくれるよな…?」 大地にそう聞かれて、黙って頷く雅を、 「ありがとう…」 と大地は言って、抱き締めた。 その後、大地は啓太の方を見て、 「今日はありがとうございました。」 と言って頭を下げた。 ここに迎えに来れたのは、啓太が電話に出てくれたからだと、大地も分かっていた。 他の男が電話に出て苛立ちはしたけれど、電話を切って冷静になったら、啓太の思惑が手に取るように伝わり、心が落ち着いたのも事実だ。 頭を下げる大地に、啓太は照れ臭そうに、 「色々あるだろうけど、幸せにしてやって」 と笑いかけると、大地も穏やかな笑顔を見せ、 「わかりました。 幸せにします」 と、啓太に伝えた。 2人が会話をしている姿を、雅は夢見心地で見つめていた。 『夢じゃないよね…』 そう思えるほど、大地からのプロポーズは信じがたい出来事だった。 啓太と別れて、大地の車の助手席に乗り込む雅。 大地は運転席に座ると、助手席の雅の手を掴んで、 「これからは、どんなときでも俺を1番に選んで…、俺を頼って…」 そう切ない表情を浮かべ、雅へ頼み込んだ。 大地のその不安そうな顔を見て、雅は頷き、 「ごめんなさい…。これからは、そうする…」 そう伝えた。 そんなに心配させるとは思わなかった。 雅は、申し訳なさと心配してくれた嬉しさが入り交じる心の中で、 「大地の事、大切にしたい…」 そう強く思っていた。
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