大地の胸の内

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大地の胸の内

雅にプロポーズをした日から、大地は臆病になっていた。 結婚したいのは俺だけなのか… 自信の無い大地は、父親の大輔と2人だけで話したいと呑みに誘った。 普段、1ヶ月しか帰れない日本での大輔の生活。 ただ、今回は、雅が心配で、初めての有給休暇をまとめて取った事で、2ヶ月近く日本に居られることになった。 それでも、大地と雅の事を思いやる時間はあっという間に過ぎ、残り半分も無い日本での生活だった。 その日々の中、こんなに迷い不安な顔の大地は初めてで、大輔も2人で話したいと思っていた。 ビールを注文した後、大地はうつむき加減でため息をついた。 「こんなに好きになるとは、思わなかった」 そんな本音が言葉として溢れる。 大輔も頷きながら、 「確かにな~。 ここ数年なんだろ? 雅ちゃんが好きだと思ったのは…」 そう言葉を返すと、 「うん。 学生の頃は、幼なじみだから少し気になるくらいだった。 こんなに好きになるなんて…」 親子の会話とは思えない内容なのに、大地は話せる相手が大輔しか浮かばなかった。 周りの人は、大地は冷静沈着で何事にもそつなくこなす人だと思っている。 友達や同級生もそうだ。 ずっと大人びた少年、青年と思われていたし、自分でも思っていた大地は、雅を好きになってから知った自分の弱さを、家族以外に見せられなかった。 雅の事を思うだけで、胸が苦しくなり、ため息ばかりが出る。 そんな大地を、 「雅ちゃんの心のスピードにあわせてあげないと、雅ちゃんが苦しくなるからな」 そう大輔が少し強めの口調で言葉にすると、 「わかってる。わかってるけど、早く俺を1番に頼ってほしい…」 切実な大地の言葉に、大輔は黙って一緒にお酒を呑んであげることしか出来なかった。 お酒に呑まれながらも、ただただ大地は、雅を恋しく想っていた。
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