母の変化

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どんなに悩んでいても、朝は来る。 そして、いつもの毎日が過ぎていく。 そんな毎日の中、夕方自宅の電話が鳴った。 「すみません、私、喫茶ムーンの小林という者ですが…」 その言葉に、1駅離れた所に古くからある喫茶店が頭を過った。 「知ってますけど、どういったご用で…?」 と、不思議に思い、言葉を返すと、 「柏木早苗(カシワギ サナエ)さんは、お宅の方ですか?」 との返事が返ってきた。 母の名前が出たとたん、私の心は鉛を抱えたように重くなり、不安でいっぱいになった。 「母です!…なにか…?」 戸惑いながら問いかけると、 喫茶店の小林さんから、 「実は、柏木さんがお店に2時間ほど注文もせず座っていて、独り言が大きくて、周りのお客様にご迷惑になっていて…」 と、信じられない言葉が告げられると、私の足は震えた。 あまりにショックで言葉を失う私に気付かないのか、 「店内のお客様から、こちらの方だとお聞きして、連絡先も調べさせていただいて、ご連絡させていただきました。それでですね…、迎えに来ていただけると…」 そこまで聞いた私は、我に返り、 「すぐ向かいます!」 そう告げて、電話を切り家を飛び出した。 そして、玄関前で立ち止まる。 私の視線の先には、中古で買った軽の車。 やっと慣れたこの車で、この緊張と動揺は事故を起こしかねない。 頭の中ではそう思うものの、母の状態が電車に乗れるのか…、使った経験の無いタクシーを今から番号を探して呼んだ方がいいのか…。 頭の中をめぐる自問自答に、あせった私は、 「とにかく、冷静に車を運転していこう」 そう心に決め、車のエンジンをかけた。 かけたそのエンジン音は、 『落ち着け!落ち着け!』 なぜか、そう私に言っているような気がした。 車の中で目を瞑り、深呼吸して目を開けた。 『よし!行こう!』 そう心で思い、母の待つ喫茶店へと車を走らせた。
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