母の入院

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帰宅した家。 一軒家に1人。 母が出掛けてる時のいつもの風景。 それなのに、今は孤独感が増していた。 ダイニングの椅子に腰を下ろす。 ため息と共に、激しい疲労が押し寄せる。 『お母さん…ごめん』 正気に戻った母は、どう思うだろう…。 私を恨むだろうな…。 座ったまま上を見上げ目を閉じると、涙が溢れて流れ出す。 今までの出来事が走馬灯のように甦る。 『ホントに起きたことだよね…』 母親の強制入院。 …認めたくなかった。 母に対してしてしまったこと、そして、たった1人の孤独を感じ、心細さと不安と寂しさと…たくさんの感情が私の中で溢れ出す。 『…落ち込んでる場合じゃないんだ…』 私は気持ちを落ち着かせて、母の部屋で保険証を探す。 すると、父の遺族年金、積立金、母の生命保険が出てきた。 ここ数年、働いていなかった母は、岸本さんが養ってくれていた。 でも、母のこれからの事は、このお金でなんとかしなくては…。 これからのこの家の生活費だって、私がすべて稼がなきゃいけない。 今の仕事だけでは、不安だ…。 私は、悩んだ挙げ句、夜のバイトをすることにした。 会社に内緒でバイトをして、首になるのは困るので、家の事情を会社に相談すると、快くバイトを認めてくれた。 そして、話を聞いてくれた川合(カワイ)課長が、会社の近くのカラオケボックスを紹介してくれた。 「お金が欲しいというのもあるだろうが、1人でいたら考え込んでしまうだろう。バイトして気が紛れるなら、その方がいい」 川合課長に、そんな言葉をかけられた私は、その場で泣いてしまった。 初めて味方がいた気がした。 …1人じゃない気がした。 私にだって、友達はいる。 皆それぞれ恋や仕事に悩んでいたりするけれど、母親に首を絞められたり、病院に強制入院する親は、友達には居ない…。 皆、両親に大事に愛されている子ばかりだ。 だから、こんなダークな悩み、誰にも言えなかった。 いや、言いたくなかった。 『かわいそうな子』 そう同情されるのが、嫌だった。 だから、友達には、誰にも言えなかった。 私は、1人で魔物と戦っている気持ちだった。 そんな私が会社で泣いたことで、近くにいたパートさん達には知られてしまったが、皆温かく私を見守ってくれていた。 そんな雰囲気がスゴくありがたかったし、この会社に入って良かったと改めて思った。
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