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肘を立て掌に顎を乗せて横臥しているひふみは、汗だくで息を弾ませた武井を面白そうに見ていた。
そもそもエアコンも入れていないこの部屋は、何もせずとも汗が滲むような室温だ。
「すっきりした?」
「………余計疲れた」
もうこの人を相手に、取り繕う必要はない気がする。
武井はその場に座り込んで、立てた両膝の上に腕を乗せ、息を整えた。
目線の少し先に、ひふみの腹があった。Tシャツの裾が捲れて、臍が見えている。
服の隙間から覗く白い肌から、さりげなく目を逸らした。
「…ひふみさんさ」
「ん?」
いくらそういうつもりがないとは言え、若い女性が初対面の男を簡単に寝室に招いてはいけない。
ありきたりの説教が口をついて出そうになった。
だが寸前で飲み込む。
「──いや、何でもない」
こうして抜け抜けと上がり込んでいる武井が、偉そうに言えた義理ではない。本当にない。
「何?寝屋に不用意に男連れ込むなって?」
ひふみは武井の心を読んだように、にやりと笑った。
「……当たらない事多いって言ってたけど、そんな事ないな」
武井が苦笑いすると、ひふみはむくりと起き上がってベッドの上に胡座をかいた。
「まぁ普段はしないよ。部屋に入れたのは、身内と仕事関係以外では武井さんが初めて。友達も少ないし恋人もいたことないしね」
初めてという言葉に武井は一瞬驚いたが、何となく納得いくような気もした。どう見ても、友達百人出来るようなタイプではない。
「武井さん、私ら初対面だと思ってるでしょ。違うよ。何度も会ってるからね」
「え?」
武井の驚いた顔を見て、ひふみはまたにやりと笑った。
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