眺めのいい部屋

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 しまった、と武井は咄嗟に身を引く。  不可思議な光を放つ機械に目を引かれただけとは言え、これでは覗き魔だ。  下から聞こえる物音で、彼女がこちらの様子を窺っているのがわかった。  急いで部屋に引っ込もうかとも思ったが、覗いておいて黙って姿を消すのも後味が良くない。向こうも不安に思うだろう。  観念して、もう一度柵から顔を出した。  予想通り、彼女は縁台の縁に立って、こちらを見上げていた。  武井は彼女に向かって頭を下げる。  「…あの、すみません。覗くつもりじゃなかったんです。ただ、煙草吸ってたらその…機械の光が見えて、何かと思って気になって」  正直に状況説明をすると、無表情でこちらを見ていた彼女は、あぁ、と納得して頷いた。  「流し素麺(そうめん)です」  「え?」  「この機械。流し素麺機です」  説明されて、彼女が指差すその機械を改めて、目を凝らして見る。  言われてみれば確かに、狸の置物の周囲を、水が流れていた。その水流の中を、白く長細い麺がぐるぐると回っている。  「………美味そうですね」  戸惑いのあまり、心にもなければ言う必要もないお世辞が、武井の口から転げ出た。  「食べます?」  じっと武井を見詰めて、彼女は無表情のままそう言った。  「え?」  「素麺。思ったより量が多くて。可能なら食べてもらえません?私、素麺嫌いなんですよ」  抑揚のない彼女の声には、有無を言わせぬ不思議な圧があった。  「いや、でも」  「部屋の鍵開けとくので、入って来て下さい」  そう言って彼女はくるりと身を翻し、ガラガラと音を立てて窓を開けると、部屋の中に引っ込んでしまった。
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