眺めのいい部屋

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眺めのいい部屋

 人に優しく、自分に厳しく。  正直に、でも言葉選びは慎重に。  困ったり悩んだりしている人には躊躇(ためら)わず手を差し伸べて、親や友人に話せないような常識から逸脱した真似はしない。  そんなふうに真っ当に生きていても、人生は思うようにいかないものだ。  □□□□□  八月も終わりに近付いたが、夜になってもまだ外は蒸し暑い。  風のない夏の夜、一人で住む部屋(アパート)のバルコニーで、武井はしばらく前から()めていた煙草を吸っていた。    それなりに有能でそれなりに人付き合いが得意な武井の日々に、大きな波風はない。  とは言え生きていれば、うまくいかないな、と感じる事が重なる時もある。  そんな時に頼るのが、いくらかの煙草といくらかのアルコールである事が、また彼の(つつ)ましやかなところだった。    仕事でミスをして叱責を受けるのは仕方がない。  だが、今日のミスは武井自身が招いたものではなかった。直属の上司の指示が間違っていたのだ。  武井がマネージャーから叱責を受けている間、上司は素知らぬ顔で自分の仕事をしていた。  言い訳を()しとしない武井の性格は、こういう時は災いとなる。  検討外れの叱責とミスの後始末に時間を取られ、ようやく仕事を片付けて家に着いた頃には、十一時を過ぎていた。
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