幸せを脅かすものには

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幸せを脅かすものには

「どうかな?おじさま、」 「可愛いよ、それにするか?」 マリリンは白いワンピースにピンクのリボンの飾りが付けられた服を持ちながら、空色のワンピースと睨めっこする。 「どっちがいいかな?」 「どっちも可愛いけど…、白い方がマリリンの髪の色を引き立ててくれて俺は好きだぜ。」 「じゃあ、こっちにする。」 マリリンは嬉しそうに微笑む、この笑顔が好きだ。 髪の色を褒めただけで嬉しそうに幸せそうにする、単純で可愛い子。 「はい、お会計。」 「あ、おじさま、自分で買うのに」 「男の見栄、みたいなものだから買わせてくれよ。」 エルヴィスはケタケタ笑う。 … だからこそ、許せないのだ。 マリリンに仇なすもの全てが。 ああ、でも命も物も時間も有限だ。ならば、全て無駄なく使うのがいい、何も生まない報復劇よりも成果を残す人体実験をしよう。 「気軽に痩せられたらいいよなぁ、まあおじさんは太ってないけどな。何事にも実験は必要だ、だが罪のないネズミに投薬するも可哀相だろう?だから、おじさんはお前で実験することにした、というわけだ」 エルヴィスは捕らえられた禿頭の男を見る、そいつはかつて聖王国で宰相をしていた男。 マリリンに嘘を教え、王太后に助けを求められないように仕向けたクズ。 「さぁ、楽しい楽しい実験の開始だ。あんたも楽しめよ」 エルヴィスは赤い液体が入った注射器を持って男の元に近付く、男はナイフを持ってエルヴィスに向かってくる。 「アルク、切り落とせ。首に注入する。」 「承知、」 ボトリ、そんな音がして男の両腕が床に落ちた背後に控えた看護師が迅速に痛み止めと止血を行う。 「あんた、運がなかったな。よりもよって陛下の愛しい娘に手を出すなんて。」 アレクと呼ばれた青年は剣をしまい男を睨みつける、もう逃げる術はない男の首に注射器の針が刺される。 そこで、男の意識は途切れた。 一週間後、両腕を失った男は大量の汗をかいて死んでいた。 エルヴィスは満足そうに笑った。 「この痩せ薬はダメだ、通達していくようにな。」 「はい」 アレクは訝しげにエルヴィスを見た。 「どうする、あれは」 「北の森の果てに捨てろ、人喰いグマが起きる時期だ。死体といえど喜んで食うだろう。」 「承知した陛下、」 アレクは元宰相の男を憐れんだ、あの少女に手を出したせいで人生が狂いあのおっかない男の毒牙にかかった。 だが、慈悲はない。 自分の欲望を満たすためにあの優しい花嫁を傷つけたのだから、裁かれて当然だ。 アレクは、まだわずかに息のある男の体を人喰いグマの棲家に突き落とした。 男の叫び声とクマの肉を咀嚼する音が聞こえたがアレクは気にせず、竜に跨り城に戻った。 馬鹿なことをしなければもう少し生きられたのに、とアレクは思った。 「?」 「余所見か?マリリン、」 エルヴィスがマリリンの頬にキスをする、それだけでマリリンは頬を赤く染める。 「なにか、聞こえた気がしたの。」 「ああ、この森の奥には人喰いグマがいるからなぁ」 「ひ、人喰い?」 怯えて涙目になるマリリンを見てエルヴィスは楽しそうに笑う、あそこにいるのはクマなんかじゃない。 「大丈夫、襲ったりはしないさ。普段は鹿とかを食ってるからな」 エルヴィスは笑って誤魔化した。 「おじさま、お怪我しちゃダメよ」 「ああ、大丈夫だ。」 あそこにあるのはクマはクマでも生き物ではない。 【人喰いグマ】という名前の拷問具だ、大きく開けられた口がある一定の周期で開きその中に人が落ちるとグシャグシャに噛み砕かれ絶命する。
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