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「このビルよ。私たちが倒す敵がいるのは」
「早速飛ばされちゃったわけか」
「そうね。さっさと何とかしろってことね」
「緊張してきたぁ」
「あんたは刀持ってるから大丈夫でしょ。言っとくけど、ビルの中は魑魅魍魎の巣窟だから気をつけてね。」
「怖いや。早く帰りたい」
「さっさと終わらせるわよ。私はいつまでも成仏できないで、こんな世界に閉じ込められるのはゴメンだわ」
そう言った彼女の足は震えていた。
「そうだな。早く帰らないとだしな」
僕たちはビルに入った。すると恐ろしい化け物たちが一気にこっちを睨んできた。
一つ目の鬼が
「なんだ。生きた人間は久しぶりだなぁ。美味そうだ。食ってやろうか」
すると双頭の異形の狼が
「オレガ食ウ。オマエ、コノ前、ウマソウナ子供食ベタ」
口々に化け物たちがどこを食べたいとか、恐ろしいことを話している。
「これだから嫌なのよ。こんな世界」
「この世界を馬鹿にするか。まさか、金貸しの守銭奴様を殺しにきたのか?」
化け物たちが、警戒態勢に入った。
僕はぎこちなく刀を抜いた。
「谷川さんは僕が守る」
「あら、生きてる時はそんなこと言ってくれなかったくせに、かっこよくなったわね。あんた」
「ムカつくんだよ。オマエら、食ってやるからよぉ」
魑魅魍魎の化け物たちが、一斉に襲ってきた。数は、十体いないくらいか。
一つ目の鬼が棍棒で殴りかかってきた時に、とりあえず小手を切り落としてやった。初めて何か生きたものを切った気がする。化け物とはいえ後味が悪い。鬼は右手首を切られただけで死んでいった。この銀色に輝く刀は霊験あらたかなのか、化け物によく効くようだ。
「流石。やるわね。清水くん。どんどん切っていいのよ。こいつら元々死んでるから」
双頭の狼は素早い。グルグルと獲物を狙うように僕たちの周りを走り回っている。飛びかかってきた!谷川さんの方だ。谷川さんは、咄嗟に何か呟いて、鏡を狼に向けた。すると鏡は光を放ち、狼は光に焼かれ、消えていった。谷川さんが呪文を唱えて鏡を向けると、他の化け物たちも消えていった。
「どうやって使ったの?」
「呪文が鏡の裏に書いてあったの。それを唱えたら倒せたわ」
「すごいなぁ」
「とりあえず、最上階に行くわよ。ここのボスが待ってる」
「谷川さん。なんか疲れてるけど大丈夫?」
「ちょっと力を使いすぎたわ。疲れた。エレベーターで行きましょう」
僕たちはエレベーターに乗った。ガラス張りになっていて、上りながら外を高いところから見渡せる。
「生きてる時と違うでしょ?この世界は欲望のままに振る舞って強いものだけが自由に楽しめる罪深い世界なの」
「なんでこんなことに……」
「そういうのを望む悪い人がいるのよ。悪徳が栄えているの」
「神様はどうにかしてくれないの?」
「死んだ後、迷った魂を閉じ込めて世界を作ってるから、他にもこんな世界があるのかもしれない。世界っていうほどでもないかもしれないけど、この忘却界の狭間に閉じ込められているの」
何を言ってるか分からないが、死んだ後、色々あったらしい。
「酷すぎるよ。こんな世界。僕も協力する」
「ありがとう。頼もしいわ。もうすぐ着くわよ……」
谷川さんは緊張した声でそう言った。
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