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「……アレ?」
柊がいるはずの別館のスタバに来たのに、姿が見当たらない。なんなら客が1人もいない。どういうこと?
カバンに入れたスマホがブブっと鳴ったので確認すると、柊からメッセージが来ていた。
『途中で会えるかと思ったのにすれ違ったみたい。悪いけど、本館に来てくれる?』
「…………」
イラ。待っとけとは言ってないけど、私が柊の方に行くって言ったんだから動くなよ。
仕事終わりの疲労感と、たまにすれ違う手を繋いだカップルが目に入り、嫌な気持ちが沸き上がってきた。なんで私がそっちに合わせないといけないの。いつもそうだ。7年前、両親が交通事故で亡くなってから私は、自分よりも弟を優先してきた。10歳も年が離れた弟で当時まだ小学6年生だった柊を、大学生になった私が育てないと、と奮闘してきた。慣れない家事、バイト、学生生活。
本当に私は何もかも1人で背負って何もかも1人でこなしてきた。何度投げ出そうとしたか分からない。元々10歳も年が離れていたのだ。両親からは目一杯の愛情を注がれて育った柊は、それはもう箱入り娘ならぬ箱入り息子だった。1人じゃ何もできない甘ったれで、家事なんかもってのほかだ。皿ひとつ洗うこともままならなかった。
親戚の人もたまに様子を見に来てくれたけど、私がしっかりしていたからか、援助はしてくれなかった。
そろそろ解放して欲しいな。
私はため息をひとつ吐いて『分かった』と返した。
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