眩暈

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眩暈

 マーナと眩暈の付き合いは、もう十年以上になります。  四十代のとき、ある日突然発症したのです。  とにかく、しんどい、しんどい。そしてつわりのように常にムカムカし、マーライオンになってしまうのです。    あちらこちらの病院に行きましたが、原因は不明、というか、元々眩暈の何十%(いつもながらエエ加減やわ)かは原因不明らしいです。  先生は、とにかく慣れろ、と言うばかり。  最初は本当にきつかった。仕事も一週間休みました。元気になるのに二週間かかりました。  しかし何度も再発を繰り返すうちに、自分の眩暈への対処の仕方がわかってきたのです。仕事も休まなくてもよくなったし、回転しながら飛行機に乗って、旅行したこともあります。  さすが三半規管。上空の気圧に敏感に反応して? そのときは、わずか二日で症状が治まりました。  症状のある間に、一、二回のマーライオンは覚悟の上です。そしてマーライオンのあとは、頭も胃もスッキリします。  夫に、妊娠したかもしれへん、と嘘をついて慌てさせたこともあります。これくらいのユーモアの精神はなきゃね。  そんなこんなで元気に過ごしていたのですが、今回、二年ぶりに大回転を起こしてしまいました。  原因は、極度の疲労とストレス。  株式市場に入ったのが悪かったのです。  マーナにとっては、あれこそが、今回の眩暈の原因でした。  たぶんやけどな。いや、絶対そうに決まってる。  さまざまなグラフと表、変動する『板』、今まで無縁だった言葉の数々。  そう良いとは思えないマーナの頭がパニックを起こし、拒絶反応を示したのは、当然のことといえましょう。  眩暈のときは、ベッドに水平に寝ることができません。クッションや折りたたんだ布団などで上半身を高くして、頭を真っすぐに保ちます。  寝返りなんてとんでもない!!!  腰が痛かろうが褥瘡になりそうであろうが、とにかく、ベッドに入ったら絶対に動かないこと。これが回転させない秘訣なのです。  パラマウントベッドがあれば楽なのかもしれませんが、それはまだ、ちょっとなあ……。  余談ですが、パラマウントベッドの株価は高いです。  こんなに気を遣って寝ているというのに、やはり、頭は少しは動くのでしょう。だから朝はマーライオン。  余談ですが、先週、激しく上がった百獣の王の株価は落ち着いてまいりました。しかし、マーナは利益を出しております。  本当は、ずっと目を閉じていたいのですが、そういうわけにもいかず、眩暈の原因、市場をちらりと覗いて、すぐにエブに。    やはりエブは落ち着きました。  でも、のんびりしてはいられません。そうなのです。目が文字を拒否するのであります。  しかし読みたい。読まないと、それはそれで続きが気になってしかたがないではありませんか。目は拒否しても、脳が言葉を求めている。  さすが、似非とはいうものの、マーナは小説家!!!  幸い、今回は四日で症状が治まりました。  二日目が一番しんどかったです。  夫には、あんたの晩ご飯だけ買ってきて、と連絡を。  ここぞとばかりに寿司を買ってきて食べる夫。  マーナは卵がゆ。  そして三日目からは、普段どおりの生活に戻りました。頭の位置さえ気をつけて行動すれば大丈夫です。  余談ですが、眩暈の症状を強くしただけで、全く効果がなかったあの薬を作っている製薬会社の株を、今、マーナは狙っています。高いっ。  小説も株もやめません。今回の眩暈で、マーナの頭のキャパは広がったようなのです。
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