夫は、マーナに小説を書いていてほしいそうです

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夫は、マーナに小説を書いていてほしいそうです

「マーナたんも、株を始めようかな」  そう言ったら、 「小説でも(でも、とは何だっ😠)書いていたほうがええんちゃうか」  やって。  やめとけ、という意味なのでしょうが、マーナの意識はすでに、株で大儲けをした自分、という未来に向かっていました。 「マーナたんだって、お金持ってるよ」  昔の子供が三十円もらったときの台詞やがな。  三十円あれば、グリコのペロティーが買えたのです。今思えば、高価なお菓子でした。  議論を避けるためでしょう。夫はさっさと寝室へ行ってしまいました。  危ない、危ない。夫は、妻が最も危険な行動に走ろうとしていることに気づいていません。  マーナはパソコンの前に座りました。そして検索。  結果、撃沈。  言葉がわからねぇじゃねぇかっ!!!  似非であっても、マーナは一応小説家なのです。  それなのに……。  これは何とかしなければなりません。  翌朝、マーナは夫に言いました。 「無理なことはしないよ。『青空銘柄』なんか買えないし、ふざけて『悪目買い』もしない。焦って『高値づかみ』もしないし、利益を狙って『当たり屋』にくっついたりもしないよ。当たり屋さんを知らんしな」  夫はトーストを食べていました。  マーナは続けます。 「『イナゴ投資家』にもならないし、『曲がり屋』にも向わない。 『ミセス・ワタナベ』に手出しはしない。 『麦わら帽子は冬に買う』わ。思い切って『見切り千両』するかもやで」   「はい、よくできました」  それが夫の答えでした。  腹立つわぁ。  よく考えたら、自分のお金で株を始めるのに夫の許可が必要でしょうか。  しかし生活費は、すべて夫の収入です(ここがマーナの弱みなんだ)。  しかしでありますっ。  マーナたんの稼いだお金は、すべてマーナたんの小遣いです。  小遣いで株を買って、どこが悪いっ!!!  今は国家が、投資しろと言っているじゃねーかっ。  しかし、しかし、マーナの頭は別のことを考え始めた。  証券用語だけを使って、原稿用紙十枚の短いお話を作りなさい。用語の意味は変えてもかまいません。そう言われたら……。  しかしっ、お金も大切です。手堅く『現物取引』だけをしている分には、『元本』がマイナスになることもないのです。  もし全財産を株につぎ込む大胆不敵なマーナであったなら、今頃、芥川賞を受賞しているはずです。(∀`*ゞ)テヘッ  夫のやつ、マーナがパソコンに向かってさえいれば、おとなしくしているものだから、小説でも書いていろ、なんて言ったのです。  まあねぇ、ここが気に入らん、というのなら、とっくに離婚になっていたでしょう。  その日、夫が会社から帰ってきてからも株の話をしたら、 「市場を読むことができるか?」  と訊かれました。  暗に、小説は読めても市場を読むのは無理だ、と断言されているようで、とても嫌な気持ちでした。  夫の命令に従い、これからももちろん小説を書きますが、秘密も持とうと思います。  証券マン。ちょっと魅力的かも。次の小説の主人公の相手役だよ。  でも、昔の場立ちをしていた男たちのほうがカッコよく思えます。今、それがないものね。
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