はこ、はこ、はこ。

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――てか、隣の四組そんなことになってんの?こっわ。  十人もの生徒に“いなくなってほしい”と願われている女子がいようとは。かなりクラスとしてやばい状態なのではなかろうか。 『その間宮さんが入れた要望がこれです』  ぴ、と高田先生は一枚の黄色の紙を先生達に見せて言う。 『“松井さんをクラスから追い出してほしい”とのこと。……この松井さんというのが、間宮さんが特にいじめている女の子ですね。そのための約束事が“給食で必ず牛乳を飲みます”とのこと。間宮さん、牛乳は好物ですからこれじゃあ約束事にもなってないんですよねえ』 『しかも、自分がいじめてる生徒の方を追い出せって、まったくいじめの自覚もないということではないですか!』 『その通り。非常に問題のある生徒です。というわけで』  彼女は、他の先生達を見回すと。それこそ給食のメニューでも語るような気軽さで、あっさりとのたまったのだった。 『今回のお願い事の採用は、これにしましょう。間宮さんに消えて頂く、ということで』  凍りつく僕をよそに、先生達も笑顔で“異議なし”と繰り返した。僕はといえば――もう完全に、その場で固まるしかなかったのである。  ひょっとして。神隠し、なんてものはなかったというのか?  先生達が、みんなの話を聞いて――みんなの闇を約束ボックスであぶり出して。その中で問題のある生徒を、毎年のように協力して消していたというのか。 『これもクラスの平和のためですからね。皆さん頑張りましょう!』 『ですね、頑張りましょう!』  先生達の笑顔が恐ろしい。ここでようやく、匿名と言いながら色紙に要望を書かせていた理由に気づいたのだ。  そもそも、僕達の教室には防犯カメラがある。  配られた色紙は、みんな違う色だった。とすれば、誰がどの色の紙に要望を書いたのかカメラで確認すれば、あっさりお願い事を書いた人が誰かなんて先生たちにはわかってしまうのではないか。匿名というのはあくまで、生徒達が闇の深いお願いをするように仕向けるためだったというだけで。 ――う、うちの学校って……。  僕は、怖くなってその場を逃げ出した。先生達が、裏で生徒を消している。それで、学校の平和を保ったことにしている。その事実が、何より恐ろしかったのである。確かにいじめをしている生徒がいるのは問題だろうが、だからといって神隠しを装って消してしまうだなんて――。  実際、その数日後。間宮さんという少女は行方不明になってしまった。一体どんな風に殺されて、一体何処に埋まっているのか。考えるだけでも恐ろしい。  あの日、神様よりも恐ろしい人間に約束してしまった子達は、その事実をどう受け止めていたのだろうか。  僕は卒業してから十年、一度もS小に足を踏み入れてはいない。  できれば今はもう、約束ボックスなんてものがなくなっていることを願うばかりである。
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