はこ、はこ、はこ。

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はこ、はこ、はこ。

 小学校の頃の記憶に、忘れられないものがある。久しぶりにあの日のことを夢で見てしまって本気で怖くなってしまったので、みんなに話そうと思う。  その小学校――仮にS小学校ということにしておく。そのS小学校では、ちょっと奇妙なルールみたいなものがあった。  約束ボックス、という不思議な箱が、一カ月ごとくらいにクラスを巡っていくのである。何でも、この学校の守り神様がお願い事を叶えてくれるという不思議な箱であるらしいのだ。小学生の僕には、どこにでもあるくじ引きかで使うような紙の箱にしか見えなかったのだが。 『はい、うちのクラスにも約束ボックスが巡ってきました!今から皆さんの色紙を配るので、そこに自分の“クラスや学校へのお願い事”と“自分が神様に守る約束事”を書いてくださいね。絶対に名前は書いてはいけませんよ、いいですね?』  箱が回ってくると、先生がクラスのみんなに色紙を配ってくれる。これはこの時はちょっと不思議だった。普通の紙を配ればいいのに、何でカラフルな色紙をみんなに配るんだろうかと。あんまり頭の良い子供ではなかったが、それでも普通の紙の方が色紙よりは安かろうということくらいは想像がついたからだ。  とはいえ、そんな小さな疑問よりも、授業を返上してちょっとした“面白いこと”ができるという期待の方が大きかったのは事実である。神様ってどんなんだろう?という興味もあったし、お願いを叶えてくれるというのもみんなの話題の的になった。匿名なので、自分が書いたことを他人にも先生にも知られずに済むという自由度が大きかったのもある。  実際には“選ばれた人だけが叶えてもらえる”という話だったので、自分のお願いが採用される確率は低かったわけだが。それでも叶えて貰えたら嬉しいというのはあったし、みんなが何を書いたのかで数日盛り上がるのもお約束なのだった。なんせ、この行事は毎年恒例。必ず、一年に一度はどのクラスにいても約束ボックスが巡ってくることはわかっていたからである。 『お前、今年は何書いた?』 『けーちゃんが何書いたのか教えてくれたら教えるー』 『ケチ!』  お互い、みんながどんなお願い事を書いたか気になってしょうがない小学校五年生の夏。  ちなみにこの年、僕が書いたのは“夏休みの読書感想文をやめてほしい”というある意味切実なものだった。毎年ひーひー言いながら誤字脱字だらけの短い原稿を提出するだけでいっぱいいっぱいだったからである。ちなみにその前の年は“給食のハンバーグを増やしてほしい”と書いた。――まあ、普通の男子小学生が思いつくレベルのお願い事なんて、そんなものなのである。内容が、学校やクラスに関わること、に限定されていたというのもあるのだが。 『お願い事もそうなんだけどさあ、毎年悩むのが約束の方なんだよなぁ』  約束ボックスが巡ってきたその日。昼休みに、親友のけーちゃんとそんな話をしていた。ちなみにけーちゃんは野球クラブに入っていることもあって、頭がほとんど丸刈り状態の少年だった。夏は涼しくて良いぞ!とのこと。本人も気に入っていたらしい。
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