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『ほら、約束ボックスのお願いってさ。“学校の役に立つお願い”をしつつ、かつ“神様に誠意ある約束”をしないと選ばれないって話じゃん?これ、結構難しいよな?誠意ある約束つっても、俺は“授業中に居眠りしない”くらいしか思いつかなかったし』
『あー、僕も似たような感じ。でもって、約束したはいいけどあんま守れてないっていう。社会の授業とかマジ眠いし』
『それな。……でも実際に、お願い事が叶ったって話もあるから、できれば叶えて欲しいんだよなあ』
ちなみに、けーちゃんとは三年生の頃からの付き合いである。なんだかんだいって、最終的にはお互いがした“お願い事”と“約束”を教え合うのが通例だった。先生には、約束ボックスには匿名で入れるようにとは言われていても、友達同士で教え合っていけないとは言われていなかったからである。
なお、この年のけーちゃんのお願い事は“体育の授業を増やしてほしい”だった。どう考えてもムリゲーだが気持ちは分かる。
『叶ったことがある人いるんだ。どのクラスの、どんな願いが叶ったの?』
僕が尋ねると、けーちゃんはわざとらしく声をひそめて言ったのだった。
『あくまで噂だけどな?……六年生の女子が去年消えたってのは知ってるか?』
『え?あ……うん。なんか学校帰りにいなくなってそのまんまっていう?』
『そうそう。それ、学校の守り神様が、六年生の誰かのお願い事を叶えたからだって言われてんだよ。その女子、クラスで女王様みたいなキャラでさ。いじめもやってて、凄い嫌われてたって話だぜ』
『ま、マジ?』
『うん、マジ』
それはつまり。誰かが“●●ちゃんが害なので消してください”と神様にお願いしたということなのだろうか。僕は少し血の気が引いた。確かに、学校へのお願い事なんて給食とか授業とか課題のことしかないと思っていたが――クラスで嫌いな子がいるからどうにかしてほしい、なんてお願いもできなくはないのである。闇が深すぎるけれど。
しかし、それが本当に叶ったのだとしたら。
お願い事をしたその子は、代わりに神様に何を約束したのだろう。この約束というのが、実質願いの対価に等しいということくらい子ども心にも分かることである。人一人を消す対価が、そう安いものであっていいはずがないのだが。
『匿名だからさあ、過激なことをお願いするやつもいるんだろうなきっと』
けーちゃんはからからと笑っていたが、僕はまったく笑えなかった。
『お互い、人にめっちゃ嫌われたりしないようにがんばろーぜ!神様に浚われるとか困るしなー』
『う、うん』
曖昧に頷きながら、思わず教室をぐるりと見回したのである。この中に、クラスの誰かに消えて欲しい――なんてことをお願いした人がいないと、一体誰が言い切れるだろう。
そして、それが神様の眼に止まらない、と誰が言い切れるだろうか。
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