2人が本棚に入れています
本棚に追加
***
ぽつんと立っている(あるいは座っている)僕が珍しいのだろう。極稀に、そんな僕に話しかけてくれる人が現れる。
「何してんの、そこで」
「え」
今回は、非常に珍しいお客さんだった。青い帽子に、同じ色のランドセルを背負った小学校高学年くらいの男の子。ある意味一番警戒心が強そうな年頃に見えるのに。
「何してんの。ため息ばっかりついて。ていうか、昨日もここに立ってなかった?」
どうやら、昨日もこの道を通りがかった人物であったらしい。それで物珍しく思われたんだろう。僕はうん、と頷く。
「ここで待ってる約束したんだ、僕。とっても大事な人と」
「そうなの?で、何日も待ってるの?」
「そうだよ。僕はあの人のことが大好きだから、何日だって待てるんだ。偉いだろ?」
ふふーんと背筋を伸ばしてアピールしてやれば。少しきつい顔立ちをしたその少年は、渋い表情になって僕と、後ろの寂れたスーパーを見る。
「よくこんな汚い場所に立ってられるな、お前」
ものすごくストレートに言われた。少年が動くたび、胸につけた名札が揺れる。今園友樹と言うらしい。友、なんて字が入っているわりに配慮がないやつだな、と僕はちょっと憤慨する。
「失礼な!そりゃ、このスーパーはボロっちいしお客さんは少ないけど!でも、あの人は此処が大好きだったし、常連のお客さんだっているんだからな。人を傷つけるようなことを簡単に言うな、って学校で教わらなかったのか?」
「……スーパーねえ」
「な、何だよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ!!」
僕は思わず唸るような声を出してしまう。彼はちょっとだけ怖気づいたようだった。そして。
「スーパーの前で待ってろって言われたならさ。普通、お買いものが終わったらすぐお前を迎えに来ると思わないの?俺だったらそうするけど」
ぐさり、とその言葉は僕に強く突き刺さったのである。
「それなのに、何日も待たされてるってどういうことかいい加減気づいた方がいんじゃねえの。お前、その人に捨てられたんだって」
「ざっけんな!冗談でも言っていいことと悪いことがある!!」
「いや、でも」
「帰れよ!僕の前から消えろって!!」
思わず怒りのまま、彼の腹にタックルしてしまった。少年の軽い体はあっさりと吹っ飛び、尻もちをつかせてしまう。
彼は泣かなかったが、口の中で“そんだけの力があるくせに”とぶつぶつとぼやいていた。そして、そのまま僕を一睨みすると、さっさと立ち去ってしまってのである。
久しぶりに人と会話できたのに、散々だった。やっぱり、子供ってのはろくなもんじゃない。昔から自分勝手に酷い事ばかりすると相場が決まっているのだから。
――ああ最悪!もう最悪、ほんと最悪!!
僕は苛々しながら、べー、と彼が立ち去った方向に向かって向かって舌を出したのだった。
最初のコメントを投稿しよう!