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嵐は、一週間近く続いた。
ゴミが散乱した道路をおじさんが片づけている。スーツ姿の男性や女子高校生、多くの通行人がゴミを避けるようにしながらゆっくりと歩き去っていく。
僕は疲れ果てながらも、まだその場所に立っていた。結局、意地を貫き通した形である。
「おい」
「!」
そんな僕に、話しかけてくる人物がいた。見れば、あの友樹少年である。彼は葉っぱや砂にまみれた僕を気の毒そうに見て、悪かったよ、と頭を下げてきた。
「この間は、酷いこと言ってごめん」
どうやら、本人なりに気に病んでいたらしい。僕は、別に良いよ、と目を逸らした。彼に悪気があったわけではないことくらい、僕にもわかっている。
「あの、それで。償いってわけじゃないんだけど。俺なりにさ、調べたんだ。そこのスーパーのこと。……カグラヤってスーパーがあったんだな、お前の後ろに」
「?」
スーパーが、あった?僕は意味がわからず、眉を顰める。なんで過去形なんだろう。大きな看板が出ているから、見ればわかるはずではないか。
そんな僕の反応に気づいたのか、俺には見えないんだよ、と彼は繰り返した。
「俺には、廃墟があるようにしか見えないんだ。ボロボロで、看板もへんたくれもない。何でこんな廃墟の前に、お前がずっと立ってるのか不思議で仕方なくて」
「え」
「やっぱり、そうなんだ。お前には、そこが普通のスーパーに見えてたんだな。……残念だけど、そこにもうスーパーはないよ。昔はあったけど、なくなっちまったんだって。……車が突っ込んで、店をぐしゃぐしゃに潰しちゃって、それ以来悪い噂が立って……建物も土地もそのまんまになっちゃったって」
「え、え?」
「……酷い事故だったらしくてさ。その事故で、スーパーにいた店長さんも店員さんもお客さんもたくさん死んじゃったんだ。……スーパーの前で、御主人様を待ってたゴールデンレトリーバーも」
「!」
僕はぎょっとして立ち上がると、自分がずっとスーパーだと思っていた場所を振りかえった。
寂れてはいるけれど、人情あるおじさんの店長が働いていたスーパー。
僕の大好きな飼い主の早苗さんが、いつも常連客をしていたスーパー。
硝子の自動ドアの向こうには、野菜の売り場が見えて。そのすぐ手前にはカウンターがあって、買い物籠を持った人達が並んでいて――。
そんな光景が、見えるとばかり思っていたのである。だから、最近このスーパーに入る人がいないのは不思議だな、お客さんが減っちゃったのかなとしか思っていなかったのだ。なのに。
「う、そ……」
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