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1、摩訶不思議な秘密の館
――その数時間前。
古めかしい、大層な造りのその館では。
寝惚け眼のまま確認した時刻が21:30を提示していた。
肌触りの良い滑らかな薄掛けを剥ぎ男は、少し開いた窓から聞こえる囁かな喧騒にただ目を向け、
「夏祭り……」
呟きながらも瞼は勝手に降りてきて、萎れた花のように頭から腰が折れて倒れそうになる。
だが、これからやらなければならないことが山ほどあるのだから、男は心の中で三つ数えて立ち上がり、天井にぶら下がる紐を引く。
そうすればすぐに向こう側から声を掛けられ、気のない返事の後、同じ背格好に和装の少女たちが足音もなく現れた。
暗がりに薄く発光しているようにも見えるほどの真っ白な肌で。
「ご当主様、お久しぶりに御座います」
「お支度、失礼致します」
無駄のない動作でてきぱきと。
まずは桶に張った湯の中に沈む木綿タオルを、絞り手渡され顔を拭っている傍で、髪に櫛が丁寧に通る。
それから脱衣した物を預け、用意された足袋と皺一つない暗色のシャツ、同系色のテーパードパンツに革ベルトを締めると。
何とも奇天烈な柄の和服、その共襟を広げ待っている。
背を見せ屈むと背縫いが中心にくるよう羽織らされ、肩山、袖山、袖口へと手を通す。
最後に木製トレーを掲げられたその上には金縁の丸眼鏡。受け取れば扉が開き少女たちは腰を折る。
「今宵、ご当主様の心身健全を祈ります」
「祈ります」
「ありがとう。お前たちも遊んでおいで、今日は夏祭りだからね」
一つ微笑む当主の男が、二人に小遣いを渡して部屋を後にすれば。
残された少女たちは嬉しそうに、ぱっ、とその姿を消すと、一筋の柔らかな光りとなって窓の外へと消えて行った。
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