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「ちょっとばかしこの館が長いからって……年増のくせに」
ぽそりと口から滑った台詞に夕顔が過敏に反応をする。
「なんですって!? もう一度きちんと、この〝夕顔さん姉さん〟に向かって言ってごらん!」
「〝おばさん〟って言ったのですけど?」
「お前とは百二十ほどしか年が変わらないじゃない!! まだ死後硬直が抜け切れていないお子ちゃまが、瑠璃様のお傍にですって?」
「若い方が良いに決まっていますもの。そうですよね、瑠璃様?」
ああ、始まった。
瑠璃は苦笑のまま次々に触診しながら他の少女たちにこんな声がけをしてゆく。
「悪いけれど、ヒメを追いかけて。きっと遠くまで行ってしまうから」
それを聞き入れたと言わんばかりに、がくん、と首を縦に振り、機械のような動きで後を追う姿を心配そうに見送った。
そんな様子を横目に、大笑いをしながら夕顔が指で輪を作って口元に当て、
「お前のぎこちない動きじゃ心配ばかりが先にきて、少しも悦ばすことだって出来ないのよぉ?」
なんて舌を出すが、その言葉の真意があまりにも腹立たしくて、琵琶は舌打ちをしてから更に悪態をついた。
「ほんと、下品な糞婆ァって救いようがないですよね」
「この――糞餓鬼っ!」
これも毎年のことであるのだから、瑠璃は今にも掴みかかろうとしている女たちに低く言い付ける。
「駄目。それ以上は肌が傷つくから。いくら可愛い君たちでも許さない……」
冷え冷えとした鋭い目付きが二体を捉えれば、ぐっ、と唇が結ばれ。萎れた花のように頭を擡げた。
ごめんなさい、と重なった声。
この世の絶望を全て背負ったように丸くなっていく背中が、あまりにも反省を示していて、
「分かれば良いよ。それに怒ってるわけじゃない。あまり俺を不安にさせないで欲しいだけ」
すぐに許して甘やかしたくなってしまうのだ。
そんな単純な言葉で骨抜きにされたよう、更に体中の力が溶かされ先程までの勢いは何処へやら。
「はぁい、瑠璃様の仰せのままに」
両手で頬に手を当て、ほぅ、と艶のある女の溜息が重なったのだった。
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