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――その頃。
「ヒメ様、ヒメ様……」
蛍の発光に導かれ。
漸く姿を見つけた少女たちは、感情の見えない声で連れ戻そうと前に周った。
「お戻りヲ、ご当主様に叱られてしまいマス」
同じような台詞、同じような背格好で三様それぞれに言われると。
「お前たちこそ。そこからもう数歩たりとも後ろに下がっちゃならないよ……こちらにおいで」
向かいに見えるはこの村、唯一の観光スポットである光蛍神社だった。
その鳥居の奥からは祭囃子や笑い声が薄ら聞こえてくる。
しかしそれを阻むみたく。
整備されたであろう黒く平らになったアスファルト、まだ引きたての白線が映えていた。
まるで〝お前たちとは住む世界が違う〟などと嘲笑うかのように。
対してこちら側は、何もかもを取り囲み隠してしまえるほどの大きく静かな森。
その木々が自由に根を張り陽光を求め伸びた陰に、女たちの住む館がある。
「前は神社にも遊びに行けたんだけど。寂しいねぇ……」
ヒメは少女たちを手招くと、少し離れるよう言いつけ背に隠した。
そして綺麗に編み込まれた髪の一筋を抜き、その辺に転がる石に巻き付けて見せると。
「ご覧……」
にこり、と冷めた笑みが口元を型どり、その数歩先へ石を放る。
するとどうだ、アスファルトに出る手前、何もないはずの湿った土へ転がる石目掛けて、目もくらむほどの電光が。
身体の底に響くような音と共に勢いよく雷が落とされたのだ。
「ヒメ様、ソレは……」
石は黒く変色し、巻いた髪だけが塵となって粉となっていた。
「少し眠っている間に……招かざるお客が忍び込んだのさ」
「退妖師……」
「ああ。それにしたってご丁寧だね、妾たち屍体だけに効くような札でも埋まっているんだろうよ……この屋敷を囲むように」
見渡し、おろおろと右往左往と「スグご当主に報告ヲ」などと騒ぎ立てている。
「おやめ、余計な心配は掛けられない」
「デスガ……」
「お前たちを寄越したってことは、察しの良い夕顔辺りが足止めの気でも引いているんだろう? アレも知らせなくて良いって、そういう腹さ」
デモ、と繰り返し、パニックになっている少女たちの頭を撫でると。
「何処の誰かは知らないが……」
吹き上がる涼風にドレスを押さえながら。
「妾たちを安らかに眠らせてくれるのは、この世でただひとり。それを邪魔する者など……」
〝全て酔わせて。
骨の髄まで啜り堕としてみせようぞ〟
得意分野じゃ、蔑み吐き捨てると、塵が舞う様を意地悪く笑い踵を返した。
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