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何食わぬ顔で戻ってきた摩訶不思議な秘密の館。
「お帰り。君たちも迎えに行ってくれてありがとう」
「ああ、わざわざ迎えを寄越すだなんて、相変わらず坊は過保護なこと」
その名も〝闇蛍館〟という。
元々は死体を安置する館だったが、引き取り手が現れないことに成仏が出来ず、夜な夜な人を襲いに彷徨うことから道術にて鎮め操ってきたのが始まりだった。
拠点を転々としながら。
古くから代々ひっそりと力と共に引き継がれ、今代そこを仕切る瑠璃はまだ成人も迎えていない、御歳十七歳の若き当主。
「当然でしょ。それにヒメは俺を困らせて喜ぶ節があるからね」
「坊の愛を確かめたいのさ」
いつの間にかその館、「一見さんお断り」と様々に複雑な手順を踏まなければ姿を表すことをしない娼館となり。
そうして辿り着き中へと足を入れた者が皆、
「まさに豪華絢爛。これほどまで心躍る夢のような世界からは帰りたくない」
「その為ならば命すら厭わない」
と口を揃えるという。
「さあ、もう少しで時間だよ。一番の花形がいつまでも油を売ってんじゃないの」
そんな闇蛍館で。
姫蛍、源氏蛍、平家蛍と仮の名を与えられ特別な漆塗りの寝棺に納まる女たちこそ、その名の如く美しく、また儚く瞬き闇夜に彩りを添えると評判である。
舞えと言われたなら妖艶に舞い、豪勢な食事や酒が丁寧に振る舞われ、いつまでも飽くことなく話に頷き、閨を共にしてくれるのだから。
「つれないねぇ……気の利いた言葉の一つでも囁いてくれたらやる気にでもなるんだけれどさ」
「ヒメ?」
「なんだい、意地の悪い言葉ならもう沢山だよ」
お代なんてものは決まっておらず、訪れた者がお礼としてどれほどでも置いていく決まり。
まあ、それが金品でも良いのだが。
女たちは別の物を欲している。
「あまり無理をさせてはいけないよ。俺の愛しい姫君様?」
言いながら、くすくす、と。
軽く笑うものだからヒメは呆れたよう半ばヤケクソに吐き捨てた。
「……ったく、憎たらしいね! 本当に坊は狡い男だ、ものにしてくれる気なんざさらさらないくせしてさ」
困り顔で笑った女の口元には二本の鋭い牙。
摩訶不思議な秘密の館、闇蛍館。
絶世の美女たちがこの世のものとは思えないほどの夢を見せてくれる娯楽施設。
しかしその実態は道術師が律する殭屍という屍体の巣窟。
そう、血を求め手招く妖しい館である。
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