2、志願者の男

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その矢先、竹籠が発光し足元をほんのり照らし出すではないか。 「わ、蛍……道標ってこういう!」 「ええ、実に情緒的でしょう。この光には沢山の意味があるんですよ」 「へぇ、例えば?」 「例えば。旅立ってもあなたの幸せを願う、だとか……」 綺麗だと、淡い明かりに胸躍らせ後を歩く男が、肩を、ぎくり、と震わせた。 悟られていないはず、何も言っていないのだから。 「そ、そう……」 それだけやっとで反応すると口つぐんでしまう。 静寂に、今度はその発光だけが喧しいほど眩く見えた。 そうしていると光りは急に立ち止まり、 「さあ、源氏蛍の部屋へ到着致しましたよ。こちらの鍵でお入り下さい」 「…………」 「そうそう、退出の際には室内電話にてその旨をお伝え下さいますよう」 「はあ……」 「では、ごゆっくり」 源氏蛍と書かれた板札がぶら下がる鍵と、僅かな明かりを押し付けられ、館の男は見えなくなってしまった。 何が何やらと思う傍ら、ここまで来たのだと。 まずは言われた通りにその鍵を照らしながら差し回し、ドアノブを下げて重厚感たっぷりのドアを押す。 すると心構えしていた心臓を掴むみたく、闇から一本のか細い腕が、手が自身に差し出されていた。 62de6fdf-1d7f-4bcf-bbac-54d0e1c8a28d 「ひっ!」 男は思わず短く悲鳴を上げる。 「そぉんなに驚かなくても」 ふふ、と品のある声が向こうで聞こえ、 「あなたが……?」 「そう。(わたくし)こそが今宵を貴方様のためだけに舞う蛍ですわ」 手の代わりに、何とか顔を見ようと竹籠を差し出し浮かび上がった女が、舌を小さく出して妖しく笑っていた。 ce97212f-0df7-478e-8705-793d625ff137 「さぁて。まずは何をして遊びましょうか?」
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