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鳴き声はすれども姿が見えない。脅かさない様にゆっくりとした動作で探すと柴田のデスクの下で猫の目が光った。柴田の引き出しには猫の餌がストックされている。だが今開けると驚いて暴れるかもしれない。
「おーい、餌あげるから出てきてくれないか」
猫は香箱座りをしたままじっと三田を見つめていた。
「困ったなあ。ん?」
引き出しの真下に餌の袋が落ちていた。
「これは、ライオンですら虜になるという神餌!」
そっと手を滑り込ませその餌を掴んだ。その餌を見た猫の目がキラリと輝くのを見逃さなかった。餌を乗せた皿を見せながら窓際まで猫を誘導する。
「ほーら、お食べ」
ゆらりと現れた猫は専務ではなく、見覚えのない黒猫だった。
「ん? どなた?」
耳に去勢手術した証のある黒猫は専務に餌場を聞いてやって来たのだろうか。柴田から野良猫にはネットワークがあって、優良餌場を共有しているのだと聞いた。色んな野良猫がこの辺りをうろうろしている所を見るとそれは真実なのだと感じた。
黒猫が前足で皿をカタカタと鳴らした。催促しているらしい。
「はいはい」
引き出しから数種類の缶詰と固形の餌を黒猫に見せた。
「フン」
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