名も無きボサボサ頭とエモーション

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俺はどこにでもいるフツーの中学生だ。 まぁフツーの中学生がいきなり自分語りすることなんてそうそうないけどね。 それよりも問題はこの城みたいな建物だ。 多分疲れたんだろう。 山の中に入って迷い込んだ先が この建物って訳だ。 もう日も陰ってきた。 まぁこんな俺でも、少しは楽になるんだろう、 と胸を撫で下ろしてしまうのは 誰にも言わないでおこう。 そうこうして、この城を探検していたが、 いきなり、明かりの着いた部屋に居たボサボサ頭のひ弱そうなおっさんが急に俺に話しかけてきた。 「僕はね今自分でも笑えるような状況に居るんだよ。何故かって? だって、自分が作り上げた人工知能に人生相談してるからさ。」 俺は本当にびっくりしたんだ。 まさか、この城みたいな所に人がいて さらに話しかけてくるなんて。 「きっとこの状況にいる君は何が何だかさっぱりだろうよ。」 「あぁ、そうだよ。てか、おっさん誰だよ。」 「まぁまぁ落ち着けって。 君に危害を加えることは無いし。 そうだ、君、少し僕と話をしないか。 コイツと話しているをしていると 何が何だか分からなくなるし。 それに、こんな何も無い場所じゃあ君も暇だろう?」 そう言っておっさんは近くにあった白いロボットを軽く叩いた。 まぁ確かにこんなとこ徘徊してたって何もないし、最後くらい人と至って罰は当たんねぇだろ。 「しょうがねえな、少しなら話してやるよ。」 「おぉそうかそうか、ありがとう。 こいつと話していると頭がおかしくなってきそうだからね。」 そう言っておっさんは話し出したんだ。 「僕はね今研究者をしているんだが、 元々はただの普通の子供だったんだ。 外で遊んだり、勉強で頭を悩ませたり、 時には、人に恋をしてモヤモヤしていたりもした。 そんな子供で育ったんだ。 あぁそうだ、先に聞いとかないとね。 君は「夏休み」と言ったらどんなことを 思い浮かべるんだい?」 そうおっさんは言った。俺は、 「まぁ、長い休みとか?」 おっさんは、 「そうかそうか、まぁそんな感じだよね。 僕はね、「綺麗で儚い夢」って 思い浮かべるんだよ。 これを言うと皆シラケた顔をするんだ。」 そういうとおっさんは少し苦笑いをした。 確かに今俺も少しシラケた顔をしてしまったが。その後おっさんは、 「まぁそんなことは置いておいて。 そう考え出すようになったきっかけはね、 いつだったけな、僕が12、3くらいの時だったと思う。 その時の夏休みに初めての彼女が出来たんだ。 彼女は言うんだ。 『貴方みたいな素敵な人初めて見た。』」 それを聞いていきなり白いロボットが動いたんだ。 「ウケル。ドクターガソンナコトイワレルナンテ。」 そう笑ったんだ。 これか、おっさんが言ってたのは。 おっさんは、 「こら、お客さんの前で馬鹿なことをするんじゃない。」 と、軽く叱ってロボットを叩いた。 「これなんだよ。 こんなことをずっと続けてるから疲れてきちゃうんだよ。」 と今度はおっさんが苦笑いをした。 そうして、続けるように 「どこまで話したんだっけ。あ、そうそう、 人として必要されてる、幸せな時間があるんだ、って感じたんだよ。 そうして、自分たちで話し合って行きたい所へ行って、思い出を作ったり、幸せな時を過ごしていたんだ。」 そういうとおっさん少し黙って、 「でも、人というのは儚くてね。 付き合って1年の記念の次の日に、 その彼女は僕よりも先にいったんだよ。」 そう言われ流石の俺でもあまり軽いことは言えなくなって黙ってしまった。 「あ、ごめんね。君を困らせるつもりはなかったんだよ。」 と、おっさんは言って、 「でも、まぁもういいんだ。 終わったことだし、それに今更追ったところで何も生まれないしね。まぁ続きを話すとね、 そのあと少しの間はね、本当に体も心も疲れ果てちゃってね。本当にあの頃だけは僕は タイムマシーンを発明しても戻りたくないね。」 と言った。 「え、おっさんタイムマシーン作れんの!?」 俺は反射的に言ってしまった。 「おぉ、落ち着け。 まぁ今の時代車が当たり前のように空を飛んで月への旅行も数年後には実用化されるような世界だからね。」 と、サラッと流してしまった。 「まぁそれは置いておいてと。 そうやって地獄のような時間を過ぎて、 僕は受験生になったんだよ。 多分君と同じくらいかな?それくらいの年になったんだ。 なんの因果なのかは僕にも分からないけど、その時の夏休みにも彼女が出来たんだ。 その子とはあまり長続きはしなかったけどね。でもその短い期間だったけど色濃い時間を過ごしたんだよね。」 と、遠くを見るような目で言った。 その時今まで静かにしていたロボットが、 「ドクターニハソレクライガチョウドイイ」 と、馬鹿にしながら言った時、不覚にも俺は笑ってしまった。 「君笑えるじゃん。」 と俺を見て大笑いするおっさんに 「うるせぇな。」 と、笑いながら反抗した。 それからおっさんは 「緊張は解けたみたいだね。よかった。 続けるとね、僕は受験生だったからちゃんと受験して行きたかった高校に入ったんだ。まぁその別れた女の子とは同じ学校だったけど仲良くしてくれたから3年間は楽しく過ごせたね。 あ、そうそう。」 そう言って、おっさんは近くのデスクっぽい所を漁ってきたかと思ったら、1枚の写真を見せてきた。 「これが僕の元カノ。」 そう言って見せてきたのは 世界的に有名なピアニストだった。 それを見て俺は驚きを隠せなかった。 なぜならこんなひ弱なおっさんが こんな世界的に有名な人と付き合っていたなんて、と思ったからだ。 「そんな驚かなくても。」 と、笑いながら言った。 「まぁ高校生活は普通に過ごしてなぁ。 懐かしい限りだよ。 まぁ、高校卒業後から機械に没頭するようになってね。当時流行っていたウイルスの研究用の機械を作ってくれって、僕らの研究チームに依頼が来たこともあったね。 それからはいろんな機械を作ったり、会社で、研究をしたりして今に至るわけだ。」 とおっさんはひとしきり言い終わったのか ふぅ、とため息をついてゆったりした。 ここで俺はふと疑問に思った。 「じゃあおっさん。なんで会社とかで働いてるのにこんな城みたいなとこに居るんだよ。」 と疑問をぶつけてみた。 驚いたように目を丸くしてから 「あぁそれはね、 数年前に会社が綺麗に他の資産家に 買収されちゃってね。 その時にリストラされて このただデカいだけの 元研究室だった建物が残されちゃってね。 だから僕はここに残ることにしたんだよ。 リストラされる時に 僕の研究のものとかは取られず残っていたし、特別行くあてもなかったからね。 だからここで静かに過ごしてるんだよ。」 と静かに白いロボットを見つめながら言った。 「当時この建物内で数名で秘密裏に研究していたのが、この完成したロボットって訳だ。 完成した時は外に出そうとも思ったが、 こいつは一応人工知能だ。 もし何かあった時に責任は取れないからここに置いているんだ。」 しみじみと言った。 「ふぅこれでひとしきり喋ったし、 もうそろそろ君も帰る時間だよ。」 と、おっさんは言ったが 「俺は、俺は、、、 帰る場所もないし、何より、もう、、」 と、ぽつりぽつりと喋ってしまった。 するとおっさんが 「いいか、これから先、 生きていれば色んなことが起きる。 今の君みたいな辛い時間が来るかもしれないし、今の僕みたいな何も考えない時間も来るかもしれない。 でも、一つだけ確かに言えることがある。 このポンコツのために僕が今まで居るように、君にも誰かから必要とされているんだ。必要の有無の前に君にはこれまで関わってきた人間がいるだろ? 親かもしれないし、友達、先生、近所の人、もっと言えば僕もだ。この短い時間だがこんな辺鄙な場所で、君と巡り合えることが出来たんだ。 この繋がりを断つのかい?そして、残された人達のことを考えたかい? ただ無常という時間が流れ、為す術なく時は進むんだ。 休むことは時には大事だ。 だけどね、 その休む内容によっては悲しむ人がいる。 それを忘れないで欲しい。」 そう俺に真剣に、静かに包むように言ってくれた。 こんな短い時間で、しかも、初めて会うおっさんに泣かされるなんてなと思いながら涙を流した。 「おいおい泣くなよ。」 と、おっさんが言った。が、何故かおっさんの声とは逆方向からハンカチが出てきた。 何事かと思えば、さっきまで嘲笑うような話をしたロボットが渡してきたんだ。 「エモーション、ナクノキライ。」 と言った。 「そうだ名前を言うのを忘れてたな。 こいつは『エモーション』。 英語で『感情』というんだ。 こいつはな、読んで字のごとく 人の感情を汲み取って行動する 人工知能なんだ。僕らの最高傑作だ。」 おっさんは誇らしげに言った。 そしてゆっくりと 「なぁ、君。 世界にはな3パターンの人間がいるんだ。 割合的には2対6対2の割合でな。」 と、いきなりおっさんが話し出した。 「まず君のことが嫌いな人間が2割。 次に君のことが嫌いでもなく 好きでもない人達が6割。 そして最後の2割が、 君のことを好きでいてくれる人間だ。 少ないと、思うかもしれないが大体みんなそうなんだよ。」 おっさんが言うと俺は 「だからなんなんだよ! どうしようと俺の勝手だろ?」 と反発してしまいバツが悪そうにしていると 「確かに君の行動は君の勝手だ。 だけどね、君を想ってくれる人達は その行動ひとつで人生が変わるかもしれない。それでも勝手だから自由にしていい。 そう言えるのか?」 そうおっさんは俺を諭すと 「大丈夫。君は1人なんかじゃない。 どこにいようと君を大切に想ってくれる人がいる。その人達のためにもゆっくりでいい。だから歩もうよ。」 そう言われ俺は 泣きながら頷いた──────。 あれから3年が経った。 今更あんな山奥に行こうとは思わない。 だけどあそこは絶対に俺の人生の分岐点だ。 ボサボサ頭のひ弱そうなおっさん、いや、 博士は元気だろうか。 今の俺にはどうなっているのかは分からない。 ただきっと今もあの城にいてロボットと たわいもない話をして笑っているのは 容易に想像出来る。 いつか会ったら、こういってやろう。 あんた凄いな。って言うのと この大学の学生証を見せて俺も頑張るよ。 ってね。
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